「低体温症」男性救った行動 暖房使えず…“人間カイロ”

この日、及川さんの元を一人の男性が訪れました。佐藤裕さん(28)。実は当時、佐藤さんら3人の中学生が、及川さんを救ったのです。

佐藤さんの母校・南三陸の戸倉中学校にも津波が押し寄せました。佐藤さんら中学生たちは避難。近所の人と一緒に、高台で夜を明かそうとしていたところに、津波に襲われた消防署から、実に10キロも漂流してきた及川さんがたどり着いたのです。

佐藤裕さん
「人の体って何となく温かさとか分かるじゃないですか。じゃなくてモノをさすっているような感じ。冷たいし、体もガチってなってるし、人の体じゃないみたい」

及川さんは、近くの工場の部屋に運ばれます。布団はありますが、停電で暖房は使えません。一体、どうすれば良いのか…

及川淳之助さん
「その当時、私、全然意識がなかったんですけど、どのような状況だったのかを聞きたいなと」

佐藤裕さん
「低体温症で布団で寝ているので、隣に行って、温めてくれということを(学校職員に)言われまして。私と大柄な先輩、両脇からくっついて温めるような感じ」

濡れた服を脱がされ、布団の中にいた及川さんに、学校職員に言われ、半袖・短パンになった佐藤さんら2人の男子中学生が抱きつきます。まさに「人間カイロ」。薄着になり、熱を伝えやすくしました。さらにもう一人の生徒が足をさすります。

太い血管が通る首やわきの下などを温めると効果的だと言います。1時間ほどして、及川さんは意識を取り戻しました。

及川淳之助さん
「なかなかできることではない。『俺いいから』って、自分ならもしかしたら、そう言うかもしれない」

佐藤裕さん
「14歳の私が何を考えて行動していたか、おぼえていない。当時は及川さんの顔を分からなかった」

津波に襲われた学校の様子が見られる気仙沼の伝承館。及川さんは去年4月、その館長になりました。仲間を亡くし、自分だけが生き残ったという負い目は今もありますが、自らの経験や震災の教訓を伝えなければと思ったからです。

及川淳之助さん
「地域住民に助けられた。そして、中学生に温められて、今の命がある。感謝、感謝しかない」

佐藤裕さん
「正直、自分が助けたとか、自分のお陰げで生きているみたいなことは微塵も思っていないので。及川さんが生きていて、次の世代に伝える事を伝承館でしているということで、自分のやったことは無駄じゃなかったと思う」