日本人初となる米野球殿堂入りを果たしたイチロー(51、マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)。殿堂入り発表前日から発表当日の様子、ニューヨーク(クーパーズタウン)の野球殿堂博物館までの道中など、6日間に密着した。(第3回/全3回)

2018年5月に行われたマリナーズ会長付特別補佐就任時の会見では「僕は野球の研究者でいたいというか。今44歳でアスリートとして、この先どうなっていくのかというのを見てみたい」と話していたイチロー。野球人生の節目を迎えたレジェンドは、“研究”は「絶賛失敗中」と話す。

Q.(以前から)「挫折をしないと」っていうこともおっしゃってましたけど、イチローさんは挫折してる感覚あるんですか。

イチロー:高校2年、ピッチャーを諦めました。挫折です。交通事故から投げ方を失ってしまって、もう長い間苦しみました。挫折です、完全に。

Q.2018年はどうですか。(マリナーズと会長付特別補佐の契約をして)試合に出られなくなったということ。

イチロー:あれで僕が諦めたら挫折ですね。続けたので、あれは挫折とは言えないです。

Q.そこに立ち向かえた理由は、何だったんでしょうか?

イチロー:可能性があったからです。翌年の2019年春の可能性はあったからですね。「いやそれもないよ」って言われたら、さすがに難しかったでしょうね。※2019年3月に東京で2試合(マリナーズの)開幕戦開催が決まっていた

Q.やっぱりあそこで続けたということが、イチローさんにとっては矜持と言い切れる。

イチロー:あれはまさしくそうです。それなしでは、あそこには立ち向かえない。

Q.結局はオファーというものがないと選手としてはやっていけない中で、引退という一つの節目が2019年に来て、今、メジャーリーグからオファーがあったら契約しますか。

イチロー:しないです。

Q.それはなぜですか?

イチロー:あの引退があったからです。あれ以上はないです。あれ以上の終わり方はないことはわかっているので、それはできないです。

Q.そうすると「選手としてこれ以上ないところまで来た」と殿堂入りの会見でおっしゃいましたけど、この先また野球人と違う道を歩んでいく、どんな道だってお考えですか。

イチロー:プロ野球選手ではないけれども、プロ野球選手だった人が、どんな生き物になっていくのかっていうかね。それやった人がいないので、なにものになれるかどうかわからないけれど、少なくとも初めての生きものであるんだろうなと思うから、それは面白そうだっていう、そこに向かっていくのは。野球の研究者でありたいと、いつまでもね、もうそれは研究中みたいなことなんですよ。だからそれはもう正解かどうかわからない、それも。例がないし、比較対象がないから、わからないんだけど、いろんなことわかるんじゃないかなって、期待してます。

「野球の研究者でありたい」と語るイチロー。当時45歳だった2019年に現役を引退し、51歳となったいまでも、野球へのあくなき探求心は尽きない。

イチロー:でも研究ってさ、基本的には失敗なんですよね。失敗することでいろんなことが見えてくるわけでしょう。僕はいろんな失敗をして、今実際に怪我してるし、失敗することが研究だと思うんですよ。うまくいくことじゃない。失敗を重ねた上で何かを導いていくことがおそらく研究だと思うので、今、失敗中ですよ絶賛。現役中はほとんど怪我しなかったイメージが大きいと思いますけど、引退してからの僕はもう怪我だらけです。それは当然ですよね。ケアはできない。無理はする。研究しながら失敗して、人間の体ってこうなるよっていうのは今まさしく実感してるところです。