■トランプ氏の影響力どこまで?カギを握る「MAGA候補」

「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」というトランプ氏のスローガンの頭文字を取って、トランプ氏に賛同する候補者は「MAGA候補」と呼ばれている。中間選挙で勝つためには、無党派層の支持も得なくてはならない。「2020年の選挙は盗まれた」というトランプ氏の主張を繰り返す候補がいる一方、トランプ色を消して選挙戦を戦おうとする候補もいる。トランプ色がプラスに働くのか、マイナスに働くのか。選挙戦の焦点の一つとなりそうだ。

長年アメリカの選挙を見守っている双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦氏に、残り1か月となった選挙戦を占ってもらった。

――依然として共和党内ではトランプ前大統領の影響力が大きい。予備選挙の段階で、共和党の穏健派の候補が次々にトランプ系の刺客候補を立てられて討ち死にしていくという状況になったが。

双日総合研究所 チーフエコノミスト 吉崎達彦氏:
特にびっくりしたのは、ワイオミング州でトランプ氏を批判してきたリズ・チェイニー下院議員(元副大統領の長女)が負けてしまったことです。票差が7対3ぐらいの大差で刺客候補に負けて、ここまでトランプ効果はすごいのかと恐ろしさを感じました。

「クック・ポリティカルリポート」を見ると、下院は共和党が「確実」「優勢」「やや優勢」を合わせると過半数の218にあと6議席というところまで来ている。

――下院は共和党が過半数を取るのはほぼ確実な情勢だが

双日総合研究所 吉崎達彦氏:
そうすると下院議長も変わるし、委員長ポストも全部共和党に取られるので、(バイデン政権は)来年は少し手こずりますね。

――夏の初めまでは民主党大敗、共和党大勝という予想だったのが、民主党が巻き返している状況について

双日総合研究所 吉崎達彦氏:
政権支持率の低迷が半年ぐらい続いていて、来年のバイデン政権は「ディープレイムダック」(レイムダック=影響力を失った政治家)だと、そんな英語はないらしいのですが、我々日本の選挙ウォッチャーの間で言っていました。しかし、ここへ来てかなり希望も出てきました。ガソリン代の影響は大きく、最もひどい時は1ガロン5ドル~6ドルだったのが、3ドル台まで下がってきたというのが助けになっているのだと思います。インフレ抑制法案が通ったのは大きかったと思います。

焦点は上院に移っている。吉崎氏が注目している上院の激戦州は、ノースカロライナ州、オハイオ州、ペンシルベニア州だ。この3州は、共和党の現職議員がトランプ現象に嫌気がさして出馬を取りやめた州で、代わりにMAGA候補が出ている。

――もしこの3州でMAGA候補が負けると、共和党から民主党に入れ替わる。

双日総合研究所 吉崎達彦氏:
それこそ50対50が、51対49になるかもしれないということです。

――共和党の候補は「あの大統領選挙はインチキだった」というトランプ氏に、賛同するかどうかを厳しく突きつけられる形になっているが

双日総合研究所 吉崎達彦氏:
本当はそんな話はしなくていいのです。残り1か月なのですから、共和党も民主党もお互いにどちらでもない中間の人を取りに行くしかないので、そういう人たちにとっては2020年にどうだったかなんて、むしろそういう話をされると自分は共和党支持だけれども、どちらかというと穏健派で「トランプはあまり好きじゃない」というような人が引いてしまうわけです。だから、なるべく残り1か月はトランプ氏が表に出ないで、景気とかインフレの話をしていた方がいいわけなのですが。

――トランプ氏が出てくれば出てくるほど普通の人は引いてしまう。そこに中絶などの要素が重なってきている。

双日総合研究所 吉崎達彦氏:
文化戦争と言われるような価値観の話になってくると、これが一体どの程度、投票行動を加速できるのかというのは前例がないので、読めないということです。