2021年からスタートした「TBSドキュメンタリー映画祭」。
テレビやSNSでは伝えきれない「事実」や届かない「心の声」、その真実に迫るこの映画祭は今年で5回目を迎え、3月14日から順次、全国6都市で上映しています。
映画祭のラインナップのひとつ、北海道放送(HBC)が製作した「劇場版 クマと民主主義」は、東京会場と札幌会場限定で上映されます。

■作品のあらすじ
夕食後、外でガラスが割れる音が響いた。窓を覗くと、黒い影が見えた。ヒグマだ。「家に入ってくるかもしれない...」そんな恐怖の夜が、2か月も続いた。
やっと解決したかに思えたとき、今度は住民が頼ってきたハンターたちの姿が突然消えた。クマの被害、ハンターの制約、政治の不透明さ。7年前、北海道の小さな村が直面した課題は、今や全国に広がっている。村が歩んできた道のりに、クマ対策のヒントがあった。
【劇場版 クマと民主主義 映画予告動画】
この作品を監督したのは入社7年目の幾島奈央監督。

2018年に北海道放送に入社し、報道部に配属。記者2か月目から人口約1400人(当時)の北海道島牧村で毎日のように現れたクマの取材を始め、全道各地のクマ出没を取材するようになり、気付けば7年の年月が経過していました。クマの出没や被害が起きるたびに「同じ課題が繰り返されているのでは…」と感じるようになったといいます。
・幾島奈央監督
「島牧村に行くのは初めてでしたが、取材してみたらハマってしまって『帰りたくないです』と会社に言ったんです」

Q.ハマってしまった?詳しく聞かせて下さい。
・幾島奈央監督
「取材初日の夜、宿の駐車場に着いた時、星空が綺麗で、空がすごく近かったんです。『うわー綺麗!』と思って、その時点で村がすごい好きになりました。これだけの豊かな自然があるのは村の魅力のひとつ。村の人たちもそれが好きで住んでいて、だからこそクマという課題も一緒についてきてしまう。豊かな自然という価値がありながら、クマと距離をどう保つのかというところに興味を持ち始めました」
しかし、取材当初はハンターたちがクマを爆竹などで追いやっている姿を見て、単純に「早く山に帰ってくれたらいいのに」と思っていたといいます。
・幾島奈央監督
「小さいころから動物全般が好きで、『クマを殺すなんてかわいそうだ』と思っていました。正直、ハンターには悪い印象を持っていたんです。でも、取材していくうちにクマが出没するのは“人間社会”が関わっているんだと実感しました」
「何も知らないで『かわいそう』とだけ言っている私は、人の命にもクマの命にも向き合っていなかったと感じました。人間社会に原因があるということは、人間側で解決できることがある。そう思って取材を続けました」

Q.人口1500人の村の課題、ネガティブな部分の取材を続けていた中で、住民との関係をどう築いていったのですか?
・幾島奈央監督
「当然、村にとって都合が悪い部分も取材するので、ニュースとして放送することが毎回嫌でした。放送することによって特定の個人が批判され、村の印象が悪くなってしまう。村の人が傷つくことになるんじゃないかと葛藤がありました」
「ただ取材を続けているうちに住民から『いま、村で起きている課題を無視する方が愛がない』と言ってくれて、『面白がっているのではなくて、本気で考えているんだということが伝わるからやってほしい』と背中を押してくれました」
「村の人たちは人が温かく、『コーヒー飲んでいきなよ』と声をかけてくれたりしました。こんなに温かい人たちがクマに遭遇して、被害に遭ってほしくないとさらに感じた瞬間でした」