ベルリンと沖縄を拠点にしている現代美術家・照屋勇賢さんが、モーツァルトのオペラ「魔笛」の制作に取り組んでいます。初めて舞台の総合演出を手がける照屋さんの思いを取材しました。

先月から那覇市で本格的に始まった、オペラ「魔笛」の稽古。琉球古典音楽にあわせて、ダンスパフォーマンスが繰り広げられます。



総合演出を担当するのは、県出身の現代美術家・照屋勇賢さん。ベルリン在住で、世界的に活躍するアーティストです。

代表作のひとつ、紅型の着物「結い, You-I」は、今年4月から、大英博物館での常設展示が決まっています。

yuken teruya studio

伝統的な紅型の文様と見紛うのは、パラシュートを使って下降する兵士の姿。

沖縄の日常のなかにある思いや複雑な環境を、斬新な手法で表現し続けてきました。オペラのような舞台芸術で表現するのは、今回が初めてです。

クラシック音楽と対等な琉球古典音楽 「魔笛」を沖縄風にアレンジ



▼現代美術家 照屋勇賢さん
「魔笛をテーマに舞台を作ろうと言ったときに、言葉でのキーワードは『ウチナー版魔笛』。沖縄には、琉球王国時代に作られた当時の宮廷音楽だったり、その経緯から作られたいわゆる古典音楽という立派な世界観があるので、その立派な世界観は、いわゆるクラシックと言われているヨーロッパで作られてきた伝統と、対等の立場をとれるんじゃないか」

沖縄版の魔笛を再構成しようと、振り付けや音楽など、それぞれの分野の専門家とともに模索を続ける照屋さん。物語の登場人物にも、変化を加えています。



▼組踊の“唱え”のように台詞を述べる演者
「くぬ物語や、盛賢でぃゆる男ぬ物語」

主人公の王子タミーノのかわりに登場するのは、自身の祖父・盛賢さんです。戦前、ハブに噛まれて片足を失い、そのために徴兵を免れた祖父の物語と、主人公が大蛇に襲われるところから始まるモーツァルトの「魔笛」が交差しながら展開していきます。

ヤンバルの山々を訪れ聞こえた“モーツァルトの魔笛”

照屋さんは、沖縄版「魔笛」の出発点は、取材で訪れたヤンバルの森だといいます。



▼現代美術家 照屋勇賢さん
「与那覇岳、伊部岳、西銘岳とか、そういう山の連なりを見たときに、モーツァルトの魔笛の序曲の最初の音、音楽が聞こえたんです。ヤンバルの風景をイメージさせるオープニングから、だんだんテンポが速くなっていくところは、小動物たちが森の中で生き生きとしている姿と、序曲と一致する部分がありました。沖縄戦という記憶や傷、未来への課題はもちろんありますが、それと常に一緒にあるのが自然。自然があったからある意味、戦争をサバイブすることができた。モーツァルトのインスピレーションにのせて伝えられたらいいなと思っています」

戦後80年の節目に、初めて披露される照屋さんの「魔笛」。世界で知られるオペラを通して沖縄戦からつながる、沖縄の現在を伝えようとしています。

【照屋勇賢「魔笛」】
那覇文化芸術劇場 なはーと 小劇場
▶2025年3月1日(土)①午後1時公演 ②午後5時公演