去年、北海道旭川市で凍死した廣瀬爽彩さんが、いじめを受けていた問題。
 先月、第三者委員会が最終報告書を提出しました。
 問題の経緯を改めて振り返ります。

 2019年、中学校に入学後まもなく、母親がいじめを疑い学校に相談しますが、担任はいじめを否定します。
 6月には爽彩さんが川に飛び込んで自殺を図り、上級生に性的な動画の撮影を強要されていたことが明らかになります。
 しかし、中学校は、9月には調査を終了。
 旭川市教育委員会も、いじめ防止法の「重大事態」であると認めませんでした。
 いじめを疑う明らかな情報があったにもかかわらず、なぜ中学校や市教委は対応できなかったのでしょうか。

廣瀬爽彩さん
「いじめを受けていたんですけど…」

 生前いじめの被害を訴えていた廣瀬爽彩さん。
 遺体の見つかった公園の献花台には、今も献花が途切れることはありません。

 最終報告書では上級生による性的な動画の送信要求・性的な行為の強要など、6つの項目を改めていじめとして認めました。
 しかし、爽彩さんの自殺といじめの因果関係については、「失踪する直前の状況がわからない」ことなどを理由に「不明のままである」としました。
 一方で、いじめの疑いを認めなかった当時の中学校と市教委の対応を「法律に反する」と厳しく批判しました。

第三者委員会 辻本純成委員長
「市教委のいるところで申し訳ないが、法律に従った処理ができなかった責任はある。そういう対応ができていたら、現実に起きてしまったのと違う話になっていたのでは」

 最終報告書では、爽彩さんの通っていた中学校がいじめの疑いや事実を認めなかった原因として、組織体制の問題を指摘。
 いじめの対応は教員個人に丸投げの状態で、法律が定める「組織的な対応」とは真逆の実態になっていたことを明らかにしました。
 さらに、中学校を指導監督する立場の市教委については…。

記者
「第三者委員会は最終報告書で、いじめに関して、しかるべき対応をしてこなかった歴代の市教委の怠慢が問題であると厳しく批判しました」

 問題の背景にあったのは、法律への理解不足や、怠慢だけなのか…。
 記者会見では、こんな質問も相次ぎました。

記者会見での質問
「元校長はもともと市教委にいたということで、元上司と部下の関係だったと聞いている。そういったこともあって強い指導性を発揮できなかったという意見も出てくると思うが」

 爽彩さんが通っていた中学校の校長は、2016年まで旭川市教委の学校教育部次長を務めていました。
 その後、2018年に中学校に校長として赴任します。
 爽彩さんは、その1年後に入学しました。
 つまり、中学校を指導するはずの市教委は「中学校の校長のかつての部下」という逆転した関係になっていたのです。
 いじめを認めなかった中学校の判断には、旭川の教育現場特有の事情があったのではないか。
 そう指摘する地元の教育関係者もいます。

旭川の教育関係者
「確実に隠蔽に見えるということ。隠蔽に見えるには必ず動機がある」

 中学校がいじめを認めなかった背景には、旭川の教育現場特有の事情があったのではないか。
 地元の教育関係者が指摘します。

旭川の教育関係者
「隠蔽に見えるには必ず動機があるという。その動機は何かというと、『六稜会』と言われている地元の先生たちのOB会」

 「六稜会」とは、北海道教育大学旭川校のOB会です。
 旭川市内の小中学校の多くの教員が、この「六稜会」に所属していて、爽彩さんが通っていた中学校の校長や教頭もメンバーだったといいます。

旭川の教育関係者
「大学生のときから一緒の同期のメンバーが、同じマチの小中学校に勤務して、ずっと切磋琢磨していく。全員知った顔という中で、自分が関わってる学校で、いじめに限らず、不祥事があると、やはりメンツが立たない、恥ずかしい、そういった心理も働くと考えられる」

 そんたくや隠蔽はなかったのか。
 この疑念に対し、旭川市教委の黒蕨真一教育長は…。

旭川市教育委員会 黒蕨真一教育長(当時)
「一時期、当該校の校長は指導課の管理職だったので関係性はあるが、その関係性をそんたくして、指導に何か配慮があったことは一切ないと受け止めている」

 真相を聞くため、爽彩さんの通っていた中学校を訪ねましたが、再調査や保護者説明会が終わっていないことなどを理由に回答は得られませんでした。

 教育現場が組織的にいじめの問題に取り組んでいくためには何が必要なのか。
 旭川の高校教諭で、いじめ問題に取り組むNPOの理事長を務める岩岡勝人さんはこう訴えます。

NPO「学校の底力」理事長 岩岡勝人教諭
「特に学校現場は減点方式なので、そういったルールや風潮、風はなかなか変わっていかないと思う。事が起きてから第三者が入るのではなくて、常日頃から第三者が情報を共有して、市教委と学校と協力しながら解決していくという第三の目が必要だと感じる」

 爽彩さんの死を教訓として、教育現場は変わることができるのか。
 学校や教育委員会の意識改革が求められています。