「岡林勇希」への思い

そして岡林勇希選手である。
1打席目こそ凡退したが、3回裏の2打席目は先頭打者でライト前ヒットを放ち出塁。2点目のホームを踏んだ。
5回裏にはまたしても先頭で、今度はレフトへの流し打ちヒット、3点目のホームも岡林選手が踏んだ。
この回は打者一巡の攻撃になって、さらに2点を加えた。6回裏もまたまた先頭、右中間を抜くライナーで一気に3塁に駆け込んだ。
これで今季10本目の3ベース、リーグ単独トップの“三塁打王”である。
岡林選手は、もうひとつの真骨頂である守備も魅せた。
6回表に先発の大野雄大投手がジャイアンツ打線に連打を浴びて1失点、なおも1死満塁で5番の岡本和真選手を迎えた。
マウンドにはリリーフの谷元圭介投手。岡本選手の打球は快音を残してセンターへ。
犠牲フライでの1点は覚悟したが、加速しながら前進して打球をキャッチした岡林選手の本塁への送球で3塁ランナーは足止め、追加点はならなかった。
どよめくドーム。ここで点が重なるとゲームの流れを左右しかねない大切な場面、実に大きなプレーだった。
「最終戦セレモニー」での思い

ゲームは7対1でドラゴンズが完勝した。
「あと1本が出ない」と言われ、相変わらず僅差の試合が多い今シーズンの中でも“快勝”だった。
「もっと早くこういう試合が観たかった」とスタンドのドラゴンズファン誰もが思ったことだろう。
そして、その思いは立浪監督にもしっかり届いていた。
「来年は今日のような試合が1試合でも多く皆さんにお見せできるよう」
試合後の本拠地最終戦セレモニーで、立浪監督はこう誓ったが「1試合でも多く」どころか「毎試合見せてもらってもいい」と言うのがファンの本音である。
チームが伸びる手応えは確かにある。 あとはそれをどう実らせるのか、実らせることができるのか、この日「満員御礼」となったスタンド席で、そんな思いをかみしめながらセレモニーを見守った。
セレモニーの後、立浪監督はじめコーチ、選手たちがグラウンドを一周してファンの声援に応えた。
1年間の応援に感謝を込めてという粋な演出なのだが、全員でのこうした場内一周に欠かせない大切な“パーツ”がそこにはなかった。

それは優勝ペナント。およそ4時間後に神宮球場では東京ヤクルトスワローズが連覇によって歓喜の瞬間を迎えた。
「来季こそ、そう来季こそ頼むぞ」そんな5つ目の思いを胸に、夕暮れ迫るバンテリンドームを後にした。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。