急速に進んだ中国のインターネット普及率
ところで、今日の習近平体制において、最も重要視されるのが、習近平氏個人に対して忠誠があるかどうか、そして、どれほどの忠誠心があるか、ということだ。その意味でも、不法に情報を盗み取るハッキングの世界で、組織ごとにその技術力と成果を競い合っている、という指摘もある。そして、それを支えているのが、豊富な人材だ。
欧米の研究機関では「中国で特筆すべきことはサイバー空間で活用できる人材の多さ」との分析が相次いでいる。中国の巨大人口、それに急速に進むインターネット利用が理由だ。
1月17日、中国の政府機関が、国内での最新のインターネット利用状況を発表した。昨年2024年、インターネットを利用する中国国民は11億800万人。初めて11億人を突破した。赤ん坊から高齢者に至る全人口を分母にすると、普及率は78.6%という。日本の普及率は8割強と、ほぼ中国と同じだが、母数になる総人口で、中国は日本の10倍だ。
その2024年は、中国が国際的なインターネット網に入って、30周年という節目の年でもあった。インターネットで世界につながって間もない1997年、中国のネットユーザーは62万人。総人口のわずか0.0005%。つまりインターネットを利用していたのは「20万人に1人」だった。同じ1997年、日本のネット人口は「11人に1人」の割合だったから、当時、中国は大きく遅れていたが、その後は猛スピードで浸透していったわけだ。
米中トップはサイバー空間の摩擦をどう解消していくか
28年前は、中国人の「20万人に1人」しか利用していなかったインターネットが、今や11億人、普及率にして78%を超えた。そして、優秀な技術者には事欠かない。その優秀な技術者の中から、ハッカーが生まれている。
冒頭に、「トラが現れた」というデマを紹介したが、巨大なサイバー社会の中国において、国内でも、そして外国との間でも、インターネット空間はさまざまな影響力を持つ時代を迎えた。功罪という面からみれば、「功」もあれば「罪」もある。習近平政権は、インターネットでも「ネット超大国」として、米国を追い抜こうとしている。
その習近平主席だが、1月17日、トランプ氏と電話会談を行った。昨年11月の米大統領選後、両者の直接対話が公になったのは初めて。中国側の発表によると、習主席はトランプ氏にこう語りかけた。
「中国とアメリカ。2隻の巨大な船は、穏やかで健全に、そして持続可能に発展する航路を共に進んで行きましょう」
2人は対話を継続していくことで一致した。中国はまずアメリカの新政権の出方を見守るということだろう。トランプ大統領就任によって、新たな米中関係が構築されていく。サイバー空間における米中摩擦をどう解消していくかも注目したい。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。