議事堂襲撃と非常戒厳
これは、日本以外でも起きていると思います。2021年1月にアメリカ連邦議会議事堂が襲撃された事件でも、トランプ大統領が扇動し、刑事責任があるのかどうか議論がありました。免罪の話も出ていますけれども、民主主義の中心地であるアメリカで、民主主義の中心である議事堂を民衆が襲撃するという事態は、あり得ない話でした。
ところが、韓国では先月、尹大統領が非常戒厳を発令しています。これも、「野党勢力は北朝鮮の考えに基づいて動いているので、そこに対する行動だ」と正当化しているわけです。これも、妄想の暴走だと思うんです。世界的に、妄想が暴走する状況が広がっているのです。
トランプさんが大統領に就任しました。きょうの朝刊にいっぱい記事が出ていますが、前回の襲撃事件についての議論がきちんとされないまま、もう一回、権力者に上り詰めたわけです。これから、どんな世界が広がっていくのか。またもや妄想が暴走する可能性があると思います。
情報源は扇動する「デマゴーグ」
アメリカだけでなく、韓国の尹大統領も、兵庫県知事選挙もそうだと思うんです。本当かどうかわからないことにいきり立って、でも自分たちは間違っていないと思い、誰かを攻撃する。だが、確たる根拠があるかないかはわからない。
その情報源を、僕は「扇動者」と呼んでいいと思うのです。煽る人たち、アジテーターです。古代ギリシャでは「デマゴーグ」と呼んでいました。全部が嘘じゃない。本当のことも交えつつ、嘘を意識して、交えた上で煽る。
この状況は、ファシズムに近くなっていると思います。戦前の日本のファシズムも、上から命じられただけではなくて、民衆の方からこぞって手を挙げた面があって、歴史学では「上からのファシズム」「下からのファシズム」という言い方をします。
これからの時代、ファシズムが進むような社会にならないでほしいと思います。妄想が暴走する状況。暴走する妄想をどう制御するか。考えさせられる、けさの朝刊各紙でした。
◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。学生時代は日本社会思想史、ファシズム史などを専攻。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。東京社会部での勤務後、RKBに転職。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』(2024年)は各種プラットホームでレンタル視聴可。ドキュメンタリーの最新作『一緒に住んだら、もう家族~「子どもの村」の一軒家~』(2025年、ラジオ)は、ポッドキャストで無料公開中。