株式を上場していない評価額10億ドル以上の企業、いわゆる“ユニコーン企業”が世界には1260社ほどあるが、その多くはアメリカと中国が占める。しかし日本は8社ほどだ。
さらに評価額100億ドルを超える“デカコーン”企業は世界に53社あるが日本はゼロ。イーロン・マスク氏のスペースXなど3社は評価額1000億ドルを超え“ヘクトコーン”と呼ばれるが当然日本には存在しない。
日本はベンチャーが育たないと言われて久しいが、何故なのだろうか…。
「もともとは“クモの糸”の研究を大学時代に始めまして…」

企業が新規株式を公開した時の平均時価総額を見るとアメリカでは2019年以降、常に2000億円を上回っている。2020年には実に5000億円にも達している。もちろんベンチャー以外の企業も含まれているが、新規公開の株価を牽引しているのはやはりベンチャーによるところが大きい。
比べて日本は毎年平均して新規株の時価総額は100億円ほどでずーっと横ばいだ。ここからも日本でユニコーンがほとんど生まれていないことがわかる。一体なぜか…。事情を探るために成功しているベンチャー2社を取材した。

山形県鶴岡市。ここに独自の技術で画期的な新素材を生み出した企業がある。バイオベンチャー企業『スパイバー』。“バイオもの作り革命”をかかげ日本で7社目のユニコーン企業に成長した。扱う製品は植物由来の糖分を微生物に分解させ作り出す人工タンパク質『ブリュード・プロテイン』これを加工し全く新しい繊維を開発した。

一見するとコットンのようだが、より細くより強い。動物性のタンパク質であるウール、カシミアを上回る柔らかさ、肌触りを実現した。さらにナイロンなどの化学繊維と違いタンパク質なので土に還るので環境にも優しい。さらに…

『スパイバー』取締役兼代表執行役 関山和秀氏
「動物を育て(ウールなどの)タンパク質(の繊維)を採ろうとすると少なくとも採りたいタンパク質の数十倍から数百倍の穀物などを与えて1年から1年半くらいの時間、水、土地が必要になりますが…。微生物を使う一番の利点はすごく効率がいい。だいたい40時間とか2日くらいでタンパク質を作ってくれる…」
『ブリュード・プロテイン』は“脱石油素材”としても世界が注目する。この画期的な繊維の発明は思わぬ研究から始まっていた。
『スパイバー』取締役兼代表執行役 関山和秀氏
「もともとは“クモの糸”の研究を大学時代に始めまして、その技術がやはりすごく、これは人類にとって本質的に重要な技術になり得ると思って起業した…」
細くて強靭なクモの糸を人工的に作ることができれば様々に利用できると考えた。だがクモの糸は水に濡れると極端に縮む。これでは繊維としては実用性がない。しかし主成分がタンパク質であることに着目し現在の事業にたどり着いた。今やブリュード・プロテイン繊維は『ザ・ノース・フェイス』など約40ブランド150アイテムに採用されている。
この画期的ベンチャーも簡単に支援が受けられたわけではない。2021年に100億円を投資してくれたのは日本の企業や金融ではなくアメリカの投資ファンド『カーライル』だった。その後約1300億円の資金調達を実現している。人工タンパク質は繊維以外にも強くて軽い素材として自動車のボディーなど様々な用途で将来性が期待されている。


『スパイバー』取締役兼代表執行役 関山和秀氏
「新しいものを使っていくことには間違いなくもの凄い大きなリスクがあって、大きな企業であればあるほど社会的責任も大きいので慎重にならざるを得ない…。でも本当に必要なものであればサポートしてもらえる…」