衣装は、言葉にできない感情や物語の裏側を静かに語る――。
わずか一瞬の画面に映る衣装。その色や素材、シルエットのすべてが緻密に計算され、キャラクターの“語られない物語”を紡ぎだす。
映画『ラストマイル』や金曜ドラマ『9ボーダー』など、多くの話題作で衣装デザインを手がけてきた金順華さん。そのデザイン哲学と手法には、衣装が持つ「語る力」を最大限に引き出す秘密が詰まっている。
金さんがキャスト全員の衣装を担当した現在放送中のドラマ『地獄の果てまで連れていく』を用いて、そのこだわりと緻密な計算を紐解いていく。
「個」と「全体」をつなぐ、衣装デザイン

──本作ではどのような役割を担われたのでしょうか?
普段は俳優専属として撮影現場に入ることが多いのですが、今回はエキストラを含む、キャスト全員の衣装を担当しました。シーン全体のバランスを意識し、香盤表をもとに細かく調整しました。「このキャラクターにはこの衣装を」と決めたら、他の登場人物はどう合わせるか――全体の調和を取りつつ、登場人物の個性が際立つよう工夫しました。全体を見る広い視点が求められる仕事で、とてもやりがいがありましたね。
──衣装を担当する際、特に意識したことは?
作品のテーマやトーンに合わせて衣装をデザインすることです。本作は復讐劇なので、衣装が物語の緊張感や登場人物の感情を支える重要な要素になります。一方でヒューマンドラマでは、登場人物が自然に溶け込むことが求められるので、衣装はあくまで“引き立て役”です。作品ごとに衣装の魅せ方を柔軟に変え、物語の一部として機能させることを心がけています。たとえば上着ひとつにしても素材や生地の厚さ、色味などを、それぞれのキャラクターの背景や立場の違いが視覚的にも明確に伝わるように工夫しています。