国民の間で大きく意見が割れる中で行われた「安倍晋三元総理の国葬」。立命館大学政策科学部の上久保誠人教授は今後、感情論抜きで国葬の議論を始めるために「基準作り」が必要ではないかという見解を示しています。

―――安倍晋三元総理の国葬は、なぜこんなに賛否が分かれているのか、今後、国葬はどうしていくべきなのでしょうか?

国葬を巡る議論は、いかにも「政治家・安倍晋三を象徴する展開」だと思っています。というのは、安倍元総理はいわゆる味方、お友達とも呼ばれましたけれども、そういう方を非常に優遇して、その方々はとても安倍さんを慕って、「こんないい人はいない」「本当に良くしてくれた」「業績も本当に素晴らしい」と言うんです。岸田総理が元々どう思っていたかわかりませんけれども、国葬をやってくれという声はあったんだと思います。だからこそ国葬をする。

一方で安倍さんは非常に敵に厳しいといいますか、「民主党政権は悪夢である」と言ったり、演説会場で反対派が来たときに「こんな人たちに負けるわけにいかない」と言ったり、あと野党を支持する団体に対して非常に厳しい言葉を国会で投げ、それに訂正を求められても「私にも言論の自由はある」と。こういう方々にとっては憎しみに近い感じ、憎悪というか、こういう方々は「国葬なんかとんでもない」と。これが本質であろう、最後まで安倍政治は安倍政治であったという感じではないかと思います。

―――確かに、有権者でも安倍さんを応援したい人は熱烈で、反対する人は反対ですね。

実は、中間の人は多いんと思うんですけれど、そういう人たちは基本的にネットで声を上げないので、反対賛成の人はひょっとしたら少数かもしれませんけど、ものすごく大きな声を上げている感じじゃないかなと思います。

―――取材で一般の方に話を聞いても、「国葬のプロセスは反対なんだけど、安倍さんを弔いたい気持ちがある。」そんな人もいました。

多いと思います。そういう方は実はあまり声を大きく上げないんですよね。私の周囲の大学生なんかも実は中道的で、マイルドな考え方が多いんですけれど、そういう方は静かなので、どうしてもこういう騒ぎになる。

―――岸田総理が説明をした国葬実施の理由は、大きく分けて4つありました。①史上最長8年8ヶ月の総理大臣の重責を担った ②震災からの復興や経済再生 ③国際社会からの高い評価 ④民主主義の根幹である選挙中の銃撃に哀悼の意が寄せられている。この点については?

一言でいうとどれも弱いですよね。①は佐藤栄作元総理がそれまで一番長かったんですけど、ノーベル平和賞取って沖縄返還をやってるのに国葬をやっていないです。②は政策は評価がまだわかれています。震災復興は道半ばで、アベノミクスは賛否がわかれているし、アベノミクスの負の遺産が今円安に出ている可能性もある。③外交は高い評価を受け、非常に慕われました。北朝鮮・北方領土などでの確たる成果はなく、④についてはわかるんですけれども、国葬というには弱い。哀悼の意を示してもらえるのは、別に国葬でなくてもいいです。この4つの理由は説得力がなかったということが、国会審議の後で、国葬の反対が広がったということかなと思います。