“再犯を防ぐ”死亡した院長妹の決意

奈良県にある、元受刑者や依存症を抱えた人を支援する施設。伸子さんは2週間に1度足を運び、利用者と面談を続けている。寄り添い、話を聞くことで、少しでも再犯を減らせればと考えた。

32歳の男性、ギャンブルに依存した結果、金に困り、いわゆる闇バイトに手を染めた。

この日は、男性と3回目の面談。趣味のマラソンの話や、最近の悩みなど1時間ほど話をした。

男性は、罪を犯してしまった罪悪感から出所後も前を向けない時期があったという。そんなときに背中を押したのが、伸子さんから言われた「過去は変えられないが、これからどうするかが大事」という言葉だった。

男性(32)
「悩み事とかできたら相談できる人は、今後僕にとっては大事なのかなって思います。これまであまり相談っていうことを全然やってこなかった。(伸子さんは)常に前を向いていらっしゃるなと。そのアグレッシブさを感じると僕も元気になるというか、僕も頑張らないとって思うときもあるので、刺激を受けています」

男性は2024年8月、社会復帰に向け一歩を踏み出した。施設からの紹介を受け、奈良県内のラーメン店で働いている。正社員になって、また社会に貢献していくことが、これからの目標だという。

伸子さんは元受刑者と関わる中で、兄の事件を起こした谷本容疑者について考えていた。

伸子さん
「社会とか、良い人に出会えるか出会えないかってすごく大きいと思うんですよね。だから加害者(谷本容疑者)が出てきたときに、それを受け入れる社会があったのかなって。私も以前は、全く関わってもなかったし考えたこともなかったけれど、でも、頑張ってやり直そうと思ってる人がいるっていうことを知った。犯罪に限らず、失敗するかもしれないけど、成功すると思って、まずやってみることはすごく大事だと思うし、そういう人たちがいるっていうことを私は伝えていきたい」

兄・弘太郎さんが、かつて仕事に復帰するための支援を行っていた大阪・松原市のクリニック。伸子さんは、ここに新たな居場所作りを始めていた。話を聞いたり、元患者らが気軽に悩みを話せる場所になるように。

元患者・男性
「鬱になって(社会に)戻った人って、通院歴・病歴は残るわけじゃないですか。そういう人に対しての風当たりや社会の窓口は、めっちゃ世知辛くないですか?とたまに感じます。風評被害的な」

兄は大勢の患者に寄り添ったこの場所で、少しは兄の思いも引き継げるかもしれないと思うようになった。

伸子さん
「(兄は)笑って、応援してくれてると思うし、兄がずっといろんな方のお話を聞いてきたっていうことも、力としてもらってるかなって、思ったりすることもあります。悲しみがないわけではもちろんないですけど、でも前に進んできている自分の中での経験をまた誰かにお話することで、何かのきっかけにつながったり、考えていただけることになるのかなと思います」

2024年12月17日で事件から丸3年。まだ始まったばかりだと伸子さんは話す。

被害者や加害者という立場ではなく、悩んでいる人に寄り添い、取り残さない。それが兄から受け継いだ生き方なのかも知れない。