世界大会で一度も入賞を逃していない理由とは?

――世界のトップで戦うことが徐々に、普通に感じられるようになってきたわけですね?
川野:
オレゴンの世界陸上35km競歩が一番大きかったですね。東京五輪の20km競歩金メダルのスタノ選手と1秒差の銀メダル。初めてのシニア国際大会のメダル獲得です。それを達成した瞬間、自分も世界で戦えるんだ、と強く感じられました。それと同時に35kmの距離を歩いても1秒差で、金と銀という大きな違いが出ることも身をもって知ることができました。

――世界のトップで戦うスキルとメンタルを身につけられた?
川野:
21年の東京五輪から22年の世界陸上オレゴン、23年の世界陸上ブダペスト、24年のパリ五輪と、4大会連続で入賞以上の成績を残すことができました。一度も入賞を逃していないのは、大学時代から瑞穂コーチのもとで国際大会に向けてどういう準備をしていくのがいいか、そういう取り組みを積み重ねてきたからです。パリ五輪後も同じように、歩き込みもしましたし、よく食べて、よく寝て、よく練習して、大きなケガもありません。それが競歩の基本だと思っています。そういう姿勢を持って競技をしていけば結果がついてくる。今はその自信を持ってレースに臨めています。

酒井瑞穂コーチ:私だけでなく周りのサポートも大きかったと思います。練習拠点の東洋大が指導者も含めて練習環境を整え、所属チームの旭化成が支援する体制が上手く機能しています。特に国際大会のメダリストを何人も輩出してきた伝統のある旭化成に所属している安心感が、川野の中に確実にあります。

――早い段階で内定したことはどう捉えていますか。
川野:
高畠の時期に決められたことは、本当に良かったと思います。あと1年弱準備期間があることはアドバンテージです。それを世界陸上の舞台で生かせるように準備していきたいと思います。具体的にはこれから決めていきますが、高畠で代表入りを決められなかったら来年3月の全日本競歩能美の35km競歩に出なければいけませんでした。それがなくなるので、もしも狙えるのであれば、状況を見ながら20km競歩にもチャレンジしてスピードに対応できるようにしていきたいです。

――来年の東京世界陸上は、どんな大会としたいですか。
川野:
今回世界記録を出しましたが、それはスタートラインに過ぎないと考えています。世界記録保持者として外国勢にもマークされたり、周囲から世界記録保持者として見られるプレッシャーもかかる立場になったりしますが、世界の強豪と戦っていくんだ、というマインドは変えず、あくまでチャレンジャーとして戦っていきたいと思っています。東京五輪から5シーズン連続の世界大会になりますが、東京世界陸上は特別な思いもあります。トレーニング面でもメンタル面でも、今まで積み上げてきたものをぶつけて、1つの集大成のような感じで迎えられるレースになればいいな、と思います。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)