大統領選の最激戦州 移民たちの躍進で再生を遂げた街

7つの激戦州の中で、最も人口が多いペンシルベニア州。この州で勝利する候補者が、大統領選を制するとも言われている。
記者
「ペンシルベニア州の東部の町・ランカスターに来ています。この後、後ろの会場でトランプ氏の選挙集会が行われるということで、多くの支持者たちが詰めかけています」

トランプ氏支持者
「地上の天国を望むならトランプに!」
「すべてのアメリカ人は移民だが、合法でないとダメだ。法律がないとどうなる、カオスだ」
「もし犯罪歴のある移民が私たちの国に危険をもたらしたら、国外に追放されるべき」
訪れた支持者たちは全体的に白人が多いが、アジアやヒスパニック系、黒人の姿も見られる。
ベトナムからの移民
「ランカスターにはアジア系の人がたくさんいて、トランプ氏の応援に来ました」

――ハイチ移民が犬や猫を食べるという発言については?
「ハイチ移民と一緒に働いていますが、彼らは犬や猫を食べないことは知っています、単なる噂です。アメリカには言論の自由があるから、彼は何を言ってもいいんですよ」

ペンシルベニア州南西部に位置する都市・ピッツバーグ。かつて鉄鋼業で栄えたこの街は、産業の衰退と人口減少を受け、2011年から「移民歓迎政策」を導入。様々な国の移民が集まる「人種のるつぼ」になった。現在はAIやロボットなどで起業するテクノロジー産業の街へと生まれ変わり、躍進を遂げている。
それをリードしているのが移民だ。2023年、この街で起業した人の17%が移民だった。
街の人
「ピッツバーグは移民をとても歓迎します。アメリカは『人種のるつぼ』と言われる国で、ピッツバーグはその代表的な街です」

移民の若者たちが、ITの世界で身を興すべく、奮起する場所がある。訪れたのはAIやロボットなどの研究で有名な、全米屈指の名門・カーネギーメロン大学。「鉄鋼王」と呼ばれたアンドリュー・カーネギー氏が創設した大学だ。
案内してもらったのは、AIを活用したシステムを開発しているマリオス・サヴィデス教授の研究室。所属する学生のうち、約9割が国外出身で、教授自身も地中海の島国・キプロスからの移民だ。

マリオス・サヴィデス教授
「アメリカは移民によって成り立っています。世界中から集められた優れた人材によって成り立っている国だからこそ、偉大なのです。カーネギーメロン大学も、世界中から優秀な学生たちが集まるので、名を馳せているのです。誰が大統領になっても、この国の技術革新を止めることはないと信じています」
現在、学生と共同で、AIを使った商品の自動認識システムを開発しているサヴィデス教授。この研究室で世界トップクラスのIT技術を学び、起業を志す学生もいる。

インド出身の学生
「私の将来の目標は、いつか自分の事業を立ち上げることです。アメリカはその機会を提供してくれます。この大学で、今後のキャリアについて選択肢が広がりました」
この大学で学び、アメリカを代表するIT企業を創設した人物がいる。移民起業家のルイス・フォン・アンさんだ。
中米のグアテマラで生まれ育ったフォン・アンさんは、高校を出たあと渡米し、カーネギーメロン大学でコンピュータサイエンスを学んだ。大学卒業後、世界で最もダウンロードされている語学学習アプリを開発。40か国以上の言語を無料で学ぶことができ、特に英語は多くの人のキャリアに役立っている。

「デュオリンゴ」 ルイス・フォン・アン CEO
「裕福な人は良い教育を受けられますが、貧しい人は教育を受けられず、貧しいままです。これをデュオリンゴで解決したかったんです」

現在従業員は約800人、その3~4割が移民だ。街の再生には、移民の存在が欠かせないと感じている。
ルイス・フォン・アン CEO
「移民はピッツバーグに貢献しています。トランプ氏のやり方は壁を作るというものですが、壁を造っても移民の流入は止められません。移民は、一生懸命働きます。多くの人がやりたがらない仕事をする意欲もあります。移民は、アメリカ経済にとても役に立っているのです。右派であれ左派であれ、普通の大統領がいいです」
テクノロジー産業で起業した移民たちの躍進によって、再生を遂げたピッツバーグ。その裏で古くからある鉄鋼業は衰退の一途を辿っている。

ピッツバーグの郊外にあるアメリカ大手鉄鋼メーカー「USスチール」の工場。2023年12月、日本の鉄鋼最大手「日本製鉄」による買収計画の発表は、鉄鋼業衰退を象徴する出来事だった。
――今回の選挙で誰に投票するか決めましたか?
従業員
「決めました、言えないけど。彼(トランプ氏)の時の方が儲かったから、また同じ人かな」
「労働組合はハリス氏を応援しているけど、私はトランプ氏だよ」

大統領選の勝敗の鍵を握るペンシルベニア州。最新の世論調査では、支持率の差が0.6%(トランプ氏48.3% ハリス氏47.7% リアルポリティクス社 10月25日)と大激戦が続いている。