抑えた走りでもユニクロを猛追した樺沢和佳奈
6区の樺沢が5位でタスキを受け取ったとき、トップを走るユニクロとは50秒差があった。6区にエントリーされた選手の中で、実績は群を抜いている。鈴木尚人監督とも話し合い、「30秒差なら前にいるのが誰であろうと逆転できる」と想定していた。
ユニクロの選手とは5000mのシーズンベストが、1分以上も開きがある。6.695kmの距離の6区なら1分差でも逆転可能のはずだが、パリ五輪で左脚の大腿裏などを痛めてしまった。帰国後1か月(8月)はまったく走れず、2か月目もジョッグをしたり、ジョッグもできなかったり、という日々が続いた。
10月1日に本格的な練習を再開し、20日間で迎えたプリンセス駅伝だった。「50秒差は抜けるかどうか、微妙なラインだと思いました。パリ五輪後の練習ができていなかったので、(抑えたペースに相当する)1km3分10秒くらいの感覚で行きました」
3人を抜きフィニッシュまで残り1km地点では、トップを走るユニクロに4〜5秒差と迫った。抑えたペースでも猛追しているような差の縮まり方だった。しかし最後は、余力を残していたユニクロのアンカーに振り切られた。
「ユニクロの選手がスパートしたことと、私の脚がもたなかったことで、追いつくことができませんでした。脚がもたなかったのは完全に練習不足です」
だが樺沢の走りがあったから、3区終了時点でトップと1分48秒差の9位と完全に出遅れていた三井住友海上の、2位確保が可能になった。
2人の走りがクイーンズエイト入りを左右
パリ五輪にピークを合わせた後の難しい時期だったが、2人が区間賞を取ることができたのは、駅伝への思いも大きな要因だった。
後藤は“駅伝だったこと”を自身が区間賞を取れた理由の1つに挙げる。
「トラックの長い距離は好きではありませんが、高校のときから駅伝は好きで、景色が変わることを楽しみながら走っていました。それに自分よりもチームのために、という気持ちを強く持って走れるのはこの時期しかありません。この駅伝を無駄にしたくない、という気持ちを前面に出して走ることができました」
樺沢は想定より下の順位でタスキをもらっても、「諦めることは絶対になかったです。最下位でタスキが来ても、気持ちが切れることはありません」という。その原体感とでもいうべきレースが、入社1年目のプリンセス駅伝だった。当時は資生堂所属で、樺沢は2区で区間6位だったが、1区と5区で区間賞、3区が区間2位と先輩たちが快走し、2位に1分21秒差をつけて圧勝した。
「他力本願というか、資生堂は(翌22年にクイーンズ駅伝でも優勝する)強いチームでしたから、自分は失敗しないように走っただけでした。23年に三井住友海上に移籍して、(自身も成長して)チームの日本人の中では一番良い持ちタイムになりました。私が頑張らないといけないマインドで練習し、生活する毎日です」
クイーンズ駅伝では2人とも前半区間に登場するはずだ。後藤は前回(区間13位)に続いて2区の可能性が大きい。1区で出遅れなければユニクロとしては、後藤でクイーンズエイト、できれば5位以内を争うレースの流れに乗りたい。
「去年の2区は(右太腿の疲労骨折で)全然走れませんでした。今年はプリンセス駅伝の走りを自信に変えて、距離への抵抗も持たず、今回のように最初から攻めて、攻めてチームに貢献したいです」
樺沢は前回区間3位だった1区か、前半のエース区間の3区だろう。役割は後藤と同じでチームをクイーンズエイト、「願わくば5位とか6位」の流れに乗せることだ。「そのために、性格的(笑)には区間賞と言いたいのですが、チームの目標のための走りをします。自然と区間1、2、3位…3位は去年と同じなので、1位か2位がついてきたらいいですね」
だがクイーンズ駅伝の区間賞は簡単ではない。後藤は2区で前回区間賞選手、パリ五輪5000m代表だった山本有真(24、積水化学)と対決する可能性がある。樺沢は1区でも3区でも、五島莉乃(26、資生堂)、高島由香(36、資生堂)、小海遥(21、第一生命グループ)のパリ五輪10000m代表、さらには鈴木優花(25、第一生命グループ)、前田穂南(28、第一生命グループ)、一山麻緒(27)のパリ五輪マラソン代表らと対決することになる。
後藤と樺沢がパリ五輪代表同士の戦いに勝ったり、善戦したりすることで、ユニクロと三井住友海上のクイーンズエイト入りの可能性が大きく膨らむ。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

















