岸田政権の成果と課題 「財政健全化」と「デフレ脱却」
――中空氏は経済財政諮問会議のメンバーとして財政健全化のところに手をつけられなかったこと悔やんでいるが、財政健全化というと拒否反応を示す人が多く、「大変だといっても、今まで特段問題は起きてない」という言われ方をするが、金利がある時代に入ってきて局面が変わったと見てよいか。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
金利がある時代の背景だが、いま日本銀行が国債の半分以上持っている。でもそういう政策をやめた。なのでもうどんどん買っていくことはないということ。政府が今の政策を続けていると借金を増やしている。でも日銀はそういう非伝統的な政策をやめると決めているから、買い手がいなくなってしまう。それが金利上昇をもたらすから、そこに対する意識をトップは持っている必要がある。
――当たり前だが、短期金利も上がっていけば、利払い費で圧迫されるっていう面もある。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
中空氏が言ったように、今は確かに日銀が買うこともできるし、日本は経常収支が黒字なので、対外資産を持っている。それで今すぐ何か危機が起こることはない。こういう国は世界で日本だけ。しかしこれから高齢化が進んでいくと、だんだん経常収支は減っていき、どこかのタイミングでもっと外国人に国債を買ってもらわなければいけない時が来たら、今の低金利だと買ってくれる人がいないということになってくるから、そこへの備えが大事だ。
――すぐに手がつけられないとしても「財政健全化への意欲はある」というサインを送り続ける必要があるということか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
例えば岸田首相がやろうとしていた「大学の無償化」やいろんな「児童手当への所得制限撤廃」が、今の日本の財政状況で可能なのかと考える。本当に必要な人を選んで、支出をするという政策にせざるを得ないと思う。財源がはっきりしてないのに、そういう政策を続けることはなかなか難しい。石破氏はそこを対応されるのではないか。
――財政需要への要求はすごくあり、目先で言うと景気対策・物価高対策もしなければならない。子育て支援もあれば、福祉にもお金がかかる、高齢化は進んでいる、防衛費にもお金かかる…と、お金が要ることばかりだ。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
優先順位をつけなくてはいけない。お金が降ってきているわけではない。それをトップの口から、国民に事実を語っていくこと、理解を深めてもらうことは大事だ。
――目先の物価高対策で電気代ガス代の補助金あるいはガソリン補助金これを継続するという方向になるだろうが、もうすでに11兆円使っている。1人当たり10万円なので、それだったら早めに何万円か配って「自分で使い道考えてください」と言った方がよかったのではないかと思う、みんなに出すという政策をそろそろ考え直さなくてはいけない。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
やはりターゲットを絞るときは来ていると思う。一応危機的な段階は脱していて、インフレ率もだんだん下がってきている。支出をする場合には財源がないならば、きちっと抑制するということが必要だ。
――成長投資もいろいろやっている。半導体、GX(グリーン・トランスフォーメーション)DX(デジタル・トランスフォーメーション)…これらにもメリハリをつける必要があるか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
海外からGX政策にいろいろな懸念が寄せられている。「石炭火力を維持するのであればそれはそれでいいが、排出量を減らすような対策が必要だ」それで莫大なお金がかかる。それから「再生燃料をもっと増やしていく」となったら、グリッド・電力網の大投資も必要。「全部やる」と言ったら「お金がないからどうやって優先するのか」ということをもっとメリハリをつける。それから脱炭素。低炭素のものや、サービスを作れない国の企業は競争力を失っていくことが見える。やはり低炭素エネルギーが必要だから、それをどう実現するのか費用対効果で見せていかないといけない。
――財政健全化、メリハリをつけることは難しいけれどやらなければならないという一方で最終的な目標である「デフレの完全脱却」はできるのだろうか。