「最低賃金」全国トップ84円上げの陰で 経営者たちの受け止め方は?

一方で、経営者はどう受け止めているのか。徳島県を代表する名物「徳島ラーメン」。徳島を中心に12店舗を展開する「ラーメン東大」藍住インター店では、現在28人のアルバイトを雇っている。

人事部長の萩野茂樹さんは「人材の獲得の競争がすごく激しいというのを実感している。原材料費の高騰や水道・光熱費の高騰、それで人件費も上がって、なかなか商品の価格に転嫁しづらいというのが実際。(時給を)1000円ぐらいで設定しないと来てもらえない」。

大鳴門橋で、兵庫県の淡路島と繋がる徳島県。兵庫や大阪など近畿圏の影響もあり、徳島市内では時給1000円以上にしないと人が集まらないといい、ラーメン東大でも11月からは1050円への引き上げを決めたという。過去最大の84円の引き上げとなったことについて、徳島県の後藤田知事は…

徳島県 後藤田正純知事:
残念ながら毎年若者が、神戸・大阪、特に近畿圏、大学は外に行ってそのまま徳島には帰ってこない。徳島大学に来ている7割の人が県外だが、そのまま7割県外に出てしまう。将来的に徳島が安いから他の県行こうとなったら、結局人手不足倒産になりますよと言っている。下から2番目(全国最低賃金ワースト2位)という2023年の屈辱というか、もうこれで僕は見ていられないと。2023年は徳島が先に最低賃金審議会で決めてしまい、他の県が「徳島よりはちょっとずつ上にしよう」とどんどん(順位が)下がっていった。今度は逆の立場で最後の最後に決まるという局面だった。国の目安にプラスアルファなんてそんな恥ずかしいことはダメだと。

7月から5回にわたり開催された徳島県の最低賃金審議会は、労使双方の意見が割れ、難航したという。徳島地方最低賃金審議会の段野聡子会長は「労働者側はもういかに1000円に到達するか、1000円以上を希望していたが、経営者は、目安通り(50円増)がもういっぱいいっぱい」だったと話す。

徳島県は、グループ社員9000人以上を抱える日亜化学工業の本社や大塚製薬の工場があることなどから、1人当たりの県民所得が320万2000円と全国で8番目の高さ。

段野会長は「徳島県の立ち位置を精査して決定した。(徳島県が)中位よりも上位に位置することから、令和5年度の都道府県の全国の最低賃金中位が930円だったので、これに目安の50円をプラスして、980円まで最低賃金を引き上げるという見解に至った」と語る。

しかし、徳島県内の過疎化が進む町では、賃金の引き上げは深刻な問題だ。徳島県の南東部に位置する美波町。過疎化や高齢化により、現在の人口は5760人ほどの小さな町。

この美波町で6年前にオープンした「藍庵」。徳島県産地鶏「阿波尾鶏」を使ったラーメンで人気の店だ。現在この店では、主婦や高校生など8人のアルバイトを雇っている。1年前から働いている高校生は現在900円の時給のため、100円のアップを検討しているが、それより時給が高いベテランのアルバイトもアップをせざるを得ないという。

阿波尾中華そば 藍庵 店主 松田徹時さん:
小さいお店の経営者が、その時給アップ分はどこから出すのかというと、全部自分の財布から出ていくことになる。オープン当初は1年ぐらい夜の営業やっていたが、夜は本当に真っ暗になって、人通りは皆無。猫が店の前を横切るぐらい。今はもう昼だけの営業をやっている。売り上げに対してのその人件費率で考えたら、徳島市内と美波町日和佐地区では大きな差がある。一番安い中華そばが900円。時給分乗せるといったら1000円。人件費が乗っていますという理屈は多分通らないと思う。

国の機関である徳島労働局では「最低賃金を引き上げ、設備投資等を行った中小企業・小規模事業者にその費用の一部を助成する」制度の活用を呼びかけている。

徳島労働局局長の竹中郁子さんは「まずは賃金引き上げに関する支援策助成金等をしっかりと周知して活用してもらう。申請が上がってきたら速やかに活用できるように支援をしていくことに努めたい」という。徳島県でも、区の国の助成金を受給した事業者に対して、助成金を上乗せし、補助をする「徳島県賃上げ応援サポート事業」を行う。

徳島県 後藤田正純知事:
私どもは労働環境を良くすることだけではなく、徳島の魅力度を上げるためには、まずは賃金を上げる。そうすると経営者側が生産性を上げざるを得なくなる。いい循環、いいプレッシャーをお互いに持つことが「好循環」だと思う。賃金は労働の固定化では上がらないから、労働は流動化することによって初めて給料が上がる。我々は、将来的に人口は減るが、1人当たりの生産性を高めていき、日本で一番幸せな県になる自信がある。