食・文化・歴史を楽しみながら…「ミディ運河」を手軽に船旅

一方、もっと楽にボート旅を楽しめるのがフランスの世界遺産「ミディ運河」。古都トゥールーズから地中海まで全長240キロ。17世紀に作られた運河で、かつてはワインなどの農作物を運ぶ大輸送路でした。

現在は、レンタルした船でのんびりとボート泊を楽しめる人気のクルーズ・コースとなっています。番組でも船をレンタルした家族を取材したのですが、6人乗りの船にはベッドルームがふたつ、冷蔵庫やレンジを備えており、船中で寝泊まりしながら移動できるようになっています。

このコースは世界遺産的に見所が多く、そのひとつが高低差約20メートルの丘を船で越えるために作られた「水の階段」。ロックと呼ばれる仕組みが7つ階段状に続いています。水門を開け閉めして水位を変え、そのたびに船はひとつ上のロックに移動…これを7回繰り返して20メートル上の運河へと進んでいくわけです。現代のテクノロジーだと船ごと巨大エレベーターで引き上げてしまったりするのですが、17世紀という時代を感じさせる技術です。

またミディ運河沿いにはカステルノーダリという田舎町があるのですが、ここはビストロ料理の定番「カスレ」発祥の地といわれます。白インゲン豆と豚肉、ソーセージ、鴨のコンフィなどを煮込んだ郷土料理。さらにワインの名産地・ラングドック地方でもあるので、赤ワインで本場のカスレを楽しむ…といったことも道中でできてしまいます。

さらにミディ運河沿いには別の世界遺産である「城塞都市カルカソンヌ」もあります。古代ローマ人が築いた城壁の外側に、中世さらに城壁が築かれた歴史あるたたずまいの街。こうしたポイント毎に船から上陸して、街を楽しんで船中泊、そしてまた船で移動していく…そんな旅ができる運河です。
大自然とキャンプを楽しむアウトドア上級者向けの「アラスカ・カナダの氷河地帯」。比較的手軽に船旅と南フランスの文化と歴史を楽しめる「ミディ運河」。かたや自然遺産、かたや文化遺産で、それぞれの世界遺産としての性格の違いが水の旅にも現れているわけです。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太