二階氏をもってしても姿を見せない習近平氏

先ほど、会見に応じたのは趙楽際氏を、中国共産党序列3位と紹介した。これは共産党の最高意思決定機関、政治局常務委員における序列の順番で、日本のメディアもそう紹介している。ただし、現在の習近平主席に権力が集中する一強体制において、習近平氏というナンバー1のほかには、ナンバー2以下はいない。だから、会見に応じたのは趙楽際氏も、自らの言葉で話すこともできないのだろう。

習近平氏は、共産党のトップ、国家のトップ、それに軍のトップも兼務している。軍のトップである習近平氏が、自分が最高位の指揮権限を持つ軍の飛行機が隣国・日本の領空を侵犯した、という事件をどうみるか、だれもが注目している。

5年ぶりに実現した日中友好議員連盟の中国訪問はきょう29日までだが、訪中団が望んだ習近平氏との会見は実現しないだろう。ちなみに、議員たちが北京を訪問した27日以降、中国の国営メディアは、習近平氏の動静を報道していない。「今は自分が出るタイミングではない」ということかもしれない。

遡ること9年前の2015年5月には「二階元幹事長の3000人訪中団」があった。二階氏は、日本の観光業界の関係者ら約3000人を引き連れて中国を訪れ、北京の人民大会堂で、日中の観光交流イベントが開かれた。当時、二階氏とそろって習近平氏が壇上に上がった。

習近平氏はその場でのスピーチで、日中の友好協力を進める姿勢を表明した。当時、尖閣諸島の国有化などの影響があり、さまざまな交流が途絶えていた。そんな中、二階氏はあえて3000人を連れて中国の首都に乗り込んだ。その後の関係改善の流れができていった。

二階氏は2017年と2019年にも北京で習近平主席と会談している。中国は二階氏を大切にしてきた。それだけ中国とのパイプを持つ二階氏をもってしても、中国の最高指導者・習近平氏は出て来ない。

中国側としては領空侵犯が起きる前から、習近平氏が出て来ないのは決まっていたのだろうが、領空侵犯が起きたとなれば、なおさら出て来ない。中国の指導部で、唯一、自分の言葉でしゃべってよい習近平氏が、領空侵犯について、語るわけにはいかない。

5年ぶりの議員団の中国訪問。そこでの中国側の対応に、加えて起きた領空侵犯。日中関係は当面、低空飛行が続くのか。低空飛行であっても、領空侵犯は許してはいけない。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。