中国で経営者に説く「利他の心」

 整然と並んだ女性達に迎えられ、会場に入る稲盛さん。コンサートさながらの派手な演出が目を引き、稲盛さんが登場すると参加者達は総立ちで迎え入れる。中国はもはや成長一辺倒ではない。見通せない先に不安を抱えるのは、どの国の経営者も同じだ。稲盛さんはこれまでの経験を惜しみなく伝える。

 「日頃からコストダウンに努めていますから、往々にしてもう無理だ、できないと考えがちであります。もうダメだと思ったところを始まりと考え、乾いたタオルをさらに絞るように徹底的に原価低減に努めていくことが必要」

 「お会いできて光栄です」(経営者)
 「稲盛先生の教えを実践することで従業員やお客様にとって良くなる」(経営者)

 盛和塾の締めくくりも、全員と酒を酌み交わす。気が付けば稲盛さんを囲むように女性達が輪を作っていた。理由は すぐに分かった。直接 話したい人達が殺到して、収拾がつかなくなるからだ。

 Q 中国の経営者の印象は?

 「利益追求という点では非常に きつい人間性を持っておられますけども。それだけではダメですよという 利他の心といいますか、そういうものを私が中国でお話をしますと、それにいたく賛同されて、やはり自分達だけが守銭奴みたいにお金儲けだけではいけないんだということをよく理解されています」

故郷で語った「リーダーの条件」

 ―――2016年11月 稲盛さんは故郷・鹿児島に戻り両親の墓参りをした。寡黙で真面目ひと筋だった父親と、家族を深い愛情で包み込んでくれた母親だった。今の稲盛さんをどう見ていると思いますか?と聞いてみた。

 「喜んでくれていると思いますけれども、ちょうど思い出しますのは、京セラができて、だんだん大きくなって鹿児島の薩摩川内市に工場を造ったんです。父は大変実直で真面目で小心な人だったもんだから、あんまり、そんなに会社を大きくして」って心配していました。

  公の場に立つ数は前より減らしているとはいえ、この年も30回を超えた。長時間の講演とその後に続く宴会は負担に思うこともある、だが、稲盛さんは今日も語り掛ける。

 「85歳になろうとしています。疲れを感じる事も多くなりました。体調もすぐれない日が続きますが、このすばらしい集団のため、塾生の皆様や従業員のために、来年も体力の続く限り粉骨砕身、盛和塾の活動に努めていきたい」

 稲盛和夫さんにとってリーダーとは。 「人の上に立つ人っていうのは、才覚とか能力とかいろんなものがいると思いますけども一番大事なのは、思いやりの心を持った人でなければいけない、それを私は『利他の心』と言っている。リーダーとして必須条件だと思っています」 (2016年12月31日「ザ・リーダー」年末スペシャルより)