宙に浮く家!スペインの空中都市「クエンカ」

スペインの世界遺産「要塞都市クエンカ」

スペインの世界遺産「要塞都市クエンカ」は、山の尾根に沿って作られた街です。

尾根に沿って築かれたクエンカの街
クエンカは「空中都市」とも呼ばれる

尾根が細長く続いているため、街も細く長く1キロつづき、所によっては尾根筋からはみ出して高さ50メートルの崖の上に突き出している建物もあります。そのため「空中都市」と呼ばれるようになりました。ここも最初はイスラム教徒が要塞として使い始め、12世紀にキリスト教勢力のものになって今の街並みが出来たのです。

クエンカの街の中に水源はなく、10キロ離れた山から水を引いています。そのために崖に沿って延々と水路や水道橋を作りました。番組でも取材したのですが、切り立った崖の水路は通常のスタッフでは撮影困難で、現地のクライマーに登ってもらい、カメラを回してもらいました。

かつては細い溝状の水路を水が流れていた
16世紀に断崖に築かれた水路の跡

16世紀に作られたこの水路は今では使われていませんが、かつては街の各所にある水場へ水を供給して、当時の人口1万5千人の「命の水」となったのです。

一方、地下18メートルにトンネルを作り、山から街まで水を引いたのがアラビア半島のオマーン。

地下18メートルに作られた水路

その水利施設が世界遺産「オマーンの水利システム」になっています。

オマーンの世界遺産「オマーンの水利システム」

ファラジと呼ばれる水利・灌漑施設が今も約3000か所で使われていて、そのうちの5つが世界遺産。

砂漠に突如現れるナツメヤシの畑
オマーンの砂漠に現れる「オアシス都市」
ナツメヤシの畑と水路

砂漠の中に突如として緑豊かなナツメヤシの畑が現れ、その畑や街の中を、水路が縦横に走っている様子はまさに「オアシス都市」。水利システムは2000年以上の歴史があり、今も砂漠の中の街と畑を支えつづけているのです。

夏の気温が50℃にもなるオマーン。水路を使って、子どもたちが水遊びしていました。

水路で遊ぶ子どもたち
水路はウォータースライダー代わり

番組で撮影したのですが、まるでウォータースライダーのよう。

街の中を走る水路

水路は街の中を血管のように巡り、最も山寄りの上流が飲料用の水汲み場。

そこよりも下流の水路で、人々は洗濯をして食器を洗い、さらにモスクでの礼拝前に水で身を清めます。

水路で洗い物をする人
礼拝前に水路の水で身を清める人々

このように生活用水として先に使い、最後にナツメヤシの畑に流れこむという、合理的な仕組みになっています。

水路は最後にナツメヤシ畑に流れ込む

ファラジとは「分かち合う」という意味とのこと。モロッコの迷宮都市も、スペインの空中都市も、そしてアラビアのオアシス都市も、「命の水」を分かち合うためにそれぞれが壮大な仕組みを作り、それが世界遺産になっているわけです。
 
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太