7年ぶりに開催され、およそ4週間にわたって核軍縮の道筋などを話し合ってきたNPT(=核拡散防止条約)の再検討会議が、日本時間の27日、閉幕します。
ロシアの軍事侵攻や、様々な対立・分断の中、12年ぶりの合意文書が採択できるのか?何らかの着地点を見出せるのか?
各国の主張が激しくぶつかり合う中、ぎりぎりまで非公開の交渉が続けられています。

ここまでの会議の論点や、合意の行方など、長崎大学 核兵器廃絶研究センターの中村 桂子 准教授に聞きました。

RECNA(長崎大学 核兵器廃絶研究センター)中村 桂子 准教授:
「最終文書が採択される、されない──どちらも私としては ”半々だな” と思っています」

今月1日に始まったNPT核拡散防止条約の再検討会議──
5つの『核兵器国』に ”核軍縮の義務” を課し、”核兵器の拡散を防止” する条約の、7年ぶりの会議で、26日の閉幕を前に『最終文書の改定案』が示されました。



「核戦争は人類の生存さえ脅かしかねない」と懸念を表明。『核兵器全廃への明確な約束』など、過去の合意を再確認しています。

また『核兵器禁止条約』については「できました」という事実のみに留まっていますが、条約が掲げる『使用や実験の被害者への支援』『環境修復への取り組み』が新たに盛り込まれました。
しかし最終的にどうなるか── そして採択されるかは不透明です。
■ ”アメリカはいいけどロシアはダメ” に厳しい視線も

岸田総理大臣:「長崎を最後の被爆地に」
会議初日に演説した岸田総理は『ヒロシマ・アクション・プラン』を示し『世界の若者を、被爆地に招く』およそ13億円の ”新たな基金の創設” を発表しました。


最終文書の改定案にも『被害者との交流』が盛り込まれており、長崎が今後『軍縮教育』の場として存在感を増すことが期待されます。

一方、岸田総理が掲げる《核兵器を持つ国》と《持たない国》の「橋渡し役」としての評価は聞こえてきません。
それどころか、アメリカの核の傘に守られながら ロシアを非難する日本など ”同盟国” への評価は『非常に厳しい』と長崎大学の中村 桂子 准教諭は指摘します。

中村 准教授:
「西側の核兵器国は繰り返し ”自分達は正しい” ”信頼性のある核兵器国だ” ”信頼性のある核抑止をやっているんだ” ”ロシアとは違う” みたいな言い方をする。


そこに日本も乗っかって『ロシアはいけないけど(アメリカ)は必要』という ”二重基準” を当たり前のように打ち立てていくのは、流れとして非常にまずい。
『どの国が持っているから正しい』『この国が持っているから悪い』ということではない。
『日本はどこを向いているんだ?』という《核を持たない国》からの厳しい視線は決して変わっていません」
■ ”NPTは大事”と言いながら約束を守らない核大国の『横暴さ』に苛立ち

半年が経過したロシアのウクライナ軍事侵攻。
NPT体制の中で目の前に迫る『核兵器使用のリスクを下げる必要性』は、各国で議論に争いがありません。
しかし、《核を持たない国々》は、「それ(=使用リスクの低減)では弱すぎる」と主張。「 ”核兵器廃絶への具体的な約束” がなければ意味がない」と反発し、決裂の原因になる恐れが出てきています。

中村 准教授:
「言葉では各国共に ”NPTは大事だ” と繰り返している。でも核を持っている国のロシアに限らず、横暴さ、約束を守ってきていないことに対して、《核を持たない国》は我慢に我慢を重ねてきている。堪忍袋の緒が切れると言った状況。
もっと前に進んだ ”具体的な約束” を核兵器国から取り付けない限り ”意味はない” という強い反発も出ています」

《核を持たない国々》が生み出した『核兵器禁止条約』には、核兵器国が繰り返してきた2千回を超える核実験の被害国も参加しています。

そのひとつキリバスは『核には核』という考えを捨てない核兵器国に対し「時間の無駄だ」と怒りをあらわにしました。

(アメリカ・イギリスの核実験の被害国)キリバス:
「キリバスはNPTから脱退するかもしれません。私は大統領に提言しますが、大多数の国が ”進むべき道” について話し合っているのに、足を引っ張っるのは時間の無駄です。…熱くなってすいません。
でも私たちは『人間』を助けなければならない。(人々の苦しみから)利益を得るために武器を製造している企業を助けるためではない、と言っているのです」

核兵器を先に使わないことを約束する『核の先制不使用』について、当初は、日本など ”同盟国の責任” にも(合意文書案で)言及がありました。
しかし、反発を受けて同盟国の記述はなくなり、改定案では ”すべてが削除” されました。
■ 広島・長崎の経験を基盤として『世界をどうしていくのか』

各国の主張が激しくぶつかり合う中、12年ぶりの合意文書が採択できるのか、交渉はぎりぎりまで続き、時間切れになることも考えられると言います。
中村 准教授:
「 ”成果ゼロ。空転して終わった10年間、何もできません” では、『NPTなんて会議やったって何も決まらないじゃないか』に結びついてしまう。
世界が『弱肉強食』で、悪い方に動いてしまう── ”悪しき前例” を作ってしまうことになる。
『困難な時代』にあるというのは間違いない。核軍縮や核兵器廃絶がより理想論、空虚な言葉に聞こえると思います。
でも、だからこそ、今回《核を持たない国々》が一生懸命 主張していた議論を知って欲しい。
そこには、広島・長崎の経験を基盤として──
『核兵器が使われたら、何が人間にもたらされるのか?』を、ものすごく根っこにしっかりと据えた上で、”これからの世界をどうしていくかの議論” を一生懸命、展開しているんですね。
私達は、決してこの会議の結果だけに左右されることなく、全体を見て『今すべきことをやっていくこと』が必要ではないかと思っています」

NPT再検討会議は、日本時間の27日早朝に閉幕予定です。
合意文書にどういった文言が入るのか、またそれが採択されるか注目です。