「吸血型M&A」・・・「ルシアン問題」が浮かび上がらせたもの
—ルシアン社の手口は。
「ルシアン社の場合は、仲介会社を通じて中小企業を買収し、まともに経営に取り組むどころか、契約を守らずに、株式の譲渡金を払わなかったり、負債を創業者に押しつけたり、あげくの果てに倒産に至ったケースもある。吸い取ったカネで、他の企業を買収し、更に巨額のカネを吸い取ろうとする。昆虫の「タガメ」が、活きのいい魚から血や栄養を吸い取る。標的がボロボロになったら次の魚を狙う。そんな比喩が一番当てはまる。まさに吸血型M&Aだ」
—吸血型ですね。関係者によると、ルシアン社が買収した企業は37社にのぼる。
「芝居のようなやり口だ。台本を書いて、それぞれが役者として振る舞う。素人の手口とは思えない。関係者から、ルシアン社以外の企業も問題を起こしているケースをいくつも聞いている。ルシアン問題は氷山の一角に過ぎない。私の肌感覚では1割から2割のM&Aはまともに行われていないと思う」
—M&A仲介会社はルシアン社の問題を把握していたのか。
「個別のケースは分からない。しかし、把握しているのであれば当然伝えるのが誠実なビジネスのやり方だろう。仮に知らなかった場合でも、『知りませんでした』『免責条項があるから責任は負いません』では済まされない。買収された企業には従業員の生活、地域での歴史、積み上げてきた信頼がある。健全な中小企業を詐欺的な行為で失うことは地域の経済の衰退を加速させる危険性を孕んでいる」
—中小企業の経営者は適切な判断ができるのか。
「いかにも優秀そうな、仲介会社のコンサルタントが東京から地方に乗り込んでくる。M&Aを経験したことのない経営者の前で、立て板に水のプレゼンをする。そこで紹介された会社に、よもや騙されるとは思わない。経営者には、『早く売却したい』という切羽詰まった事情がある。それが被害の拡大に拍車をかける」
—仲介業者への規制はないのか。
「不動産や金融には、それぞれの業界を規制する『業法』がある。しかし、M&A仲介業にはそれがない。専門的な資格制度もないので、誰でも『コンサルタント』を名乗ることができる。法規制の議論をすることが時期尚早だとは思わない。業界団体や第三者機関が仲介会社の格付けをすることも効果的だ」
—中小企業と長年取引をしている銀行の役割は。
「M&Aによる業績改善を見込んで融資を行う。買収側はその貸付金までも吸い取る。結果として、銀行は貸し倒れの被害に遭うが、あまり知られたくないので、実は明るみに出ていないトラブルが多数あるとみている。一方で、地方の金融機関は、地域の実情を知悉している。既に買い手企業に関する信用情報を掴んでいることもある。経営者は仲介会社の情報だけではなく、彼らに積極的に相談し、頼るべきだ」
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