新たな視点と独自の取材でお伝えするeyes23。狙われたのは、老舗の納豆業者でした。後継者の問題を解決しようと事業を引き継いだつもりが、資金を奪われてしまう。実は今、そんなトラブルが相次いでいます。私たちはM&A=企業買収の仕組みを悪用した業者を直撃取材しました。彼らの言い分とは?

狙われたのは後継者を探す中小企業

茨城県にある老舗の納豆製造会社「金砂郷食品」。従業員50人ほどの中小企業ながら、ひと月500万食の納豆を生産しています。

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「お客様が一度食べていただいてリピーターになるか、味の部分も大きい。自信がある」

しかし2023年、絶体絶命の窮地に陥りました。

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「一番酷いときは売上が4割減った。辛かった。継続するとうちの会社も倒産してしまうという状況にならざるを得なかった」

いったい、何があったのでしょうか。

全国で300万社を超える中小企業。その3分の1が今、高齢化と後継者不足に直面しているといいます。

金砂郷食品の永田社長も後継者を見つけられず、決断したのがM&A(買収と合併による事業承継)。ほかの企業に会社を売り、経営を引き継いでもらうことにしたのです。

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「この会社を地元には残したいが、自分の家族とかではなく、きちんとした事業体のあるうちに、力がある会社と一緒になって事業経営を行うことが一番平和裏で一番良い道筋だと思っていた」

大手仲介会社が勧めてきたのが「ルシアンホールディングス」という投資会社。「約30社を傘下に持つ、多角的な経営をしている会社だ」と説明があったといいます。

2023年3月、M&A締結当日の写真で永田社長と一緒に写るのは、ルシアン社の代表と取締役。このときは、まだ…

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「締結した時は、これで会社がきちんとうまく契約書通りに成長していってもらえたら何よりという願いが一番大きかった」

ところが、経営を譲り渡した直後から…

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「最初は憤慨した。約束と全然違うし、やっていることもいい加減。お金のことも含めて許されることではない。非常に憤慨した」

ルシアン社は納豆製造の経営にはほとんど関心を持たず、まず指示したのが、金砂郷食品の預金約3500万円をルシアン側に送金させることでした。

さらに、毎月の金砂郷食品の売上の一部もルシアン社に送金していたとみられ、そして…

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「社員への給与の遅配とか、社会保険・税金の未納も顕著になった」

“納豆一筋30年”の工場長・木村さんは当時、何が起きていたのか理解できなかったといいます。

木村隆 工場長
「青天の霹靂というか、予想だにしていなかった。この先どうなってしまうのかと。従業員も不安でいっぱいだった」

ついに、ルシアン社の代表や取締役と連絡が取れなくなり、行方すらわからなくなりました

結果として、契約時に永田社長に支払われることになっていた3600万円は支払われることはないまま。会社の借入金の連帯保証も、永田社長からルシアン社側に移されるはずでしたが、永田社長につけられたままでした。

結局、永田社長は株式を買い戻し、社長に復帰。地元の銀行や取引先の協力を得て、何とか再建に漕ぎ着けました。

金砂郷食品 永田由紀夫 社長(61)
「ぎりぎり現預金や私の生命保険や色々なものを解約して、資金繰りを改善して、何とか正常化するのに1年くらいかかった」