置き去りにされた当事者の声

曽さんが入管法改定の動きを知ったのは5月12日。この時点で、すでに衆議院では審議が進んでいて、9日後には本会議で可決された。改定案は、当事者の声も聞かず、当事者に知らされることもなく成立に向けて動いていた。

この点は参議院の審議で焦点になった。

(6月6日 参議院法務委)
牧山弘恵参院議員
「制度によって影響を受ける直接の当事者の意見を聞かないままで成立に突き進んでいいとお考えでしょうか」

岸田首相
「検討過程では…有識者からの意見を当事者や関係者からのご意見に代わるものとして受け止め、永住者の在留資格につき一部の悪質な場合に取り消すことができるものとしつつ、その場合は原則として他の在留資格に変更することとして、永住者の定住性に十分配慮して慎重に立案をした」

岸田首相を補足する形で、出入国在留管理庁(入管庁)の丸山秀治次長は、「直接、関係者からヒアリングはしていない」としながら、有識者会議では「永住者の立場を踏まえた意見をいただいた」と答弁した。 

曽さんが国会に出席したことで、ようやく当事者が声を上げた。政府は真摯に耳を傾けたのか。

(6月13日 参議院法務委)
福島瑞穂参院議員
「参考人質疑で曽さんが来られていますが、これ読まれました?」

小泉法相
「すみません、ちょっと通告いただいていなかったので、その部分についてのいま、読んだ記憶、ちょっと定かに申し上げられないんですけど」

福島瑞穂参院議員
「参考人質疑、ご覧になってないんですか?」

小泉法相
「報告は受けました。そして要約はしっかりと読み込みました。ただ中身について、この方のどういう陳述があったということまでは、ちょっといま定かに正確には申し上げられない」

福島瑞穂参院議員
「何か印象に残っていることは?」

小泉法相
「申し訳ありません。ちょっと事前の通告あれば、もう一度そこをしっかり読んだんですけれども…」

やりとりがあったのは、参議院法務委で改定案が可決される直前だ。法相の苦しい答弁ぶりを見る限り、当事者の声は最後まで無視されたと言わざるを得ない。