米国に拠点を移して助走のスピードアップ

橋岡は世界陸上ドーハで8位入賞した19年頃から、海外に練習拠点を移すことを考え始めた。だが新型コロナ感染拡大で計画は中断。21年の東京五輪でも6位入賞、22年世界陸上オレゴンも決勝に進出した(10位)。そして同年11月から米国フロリダ州のタンブルウィードTCで定期的にトレーニングを積むようになった。

タンブルウィードTCはサニブラウン・アブデル・ハキーム(25、東レ)や、100mで東京五輪金メダリストのレイモン・マルセル・ジェイコブス(29、イタリア)、世界陸上オレゴン銀メダルのマーヴィン・ブレイシー・ウィリアムズ(30、米国)ら、世界トップスプリンターが揃っている。ヘッドコーチのレイナ・レイダー氏は短距離を中心に幅広い種目の指導ができる人物だ。

そこで取り組んだのは、ひと言でいえば助走スピードのアップである。以前の動画と比較すれば、今の橋岡は助走のピッチが速くなり、弾む感じが小さくなっているのがわかるだろう。昨シーズンはアップした助走スピードを生かした踏み切りができず、「絶賛迷子中です」と日本選手権をはじめいくつかの試合でコメントしていた。世界陸上ブダペストでも世界大会自身初の予選落ちを喫した。

しかし今季は3月に8m28と、早い段階でパリ五輪参加標準記録を突破。帰国後の木南記念で7m83を跳んだ翌日の取材には以下のように答えていた。

「踏み切り前の4歩、6歩の(ピッチを上げて)駆け込む局面で走りが若干浮いていました。足先だけでコントロールしようとするので、アプローチが安定しないでファウルになってしまいます」

その傾向がGGPの1、2本目では出ていた。5、6本目もファウルになったので完璧ではないにしろ、良い感触があった。

「浮かずに行けたのですが、記録に結びつけられませんでした。でも、次にはつながると感じました。3月に標準記録を跳んだときより感覚としては良くなっています」

走幅跳は踏み切り時の体への負荷が大きく、昨シーズンまでは橋岡もケガも多かった。肝心な時期に練習が中断することもたびたびあり、世界陸上の予選落ちもその影響が大きかった。しかし今年は痛みがほとんど出ていない。

「以前の跳躍ではタイミングがずれると、体に不具合が生じやすかったのですが、今は素早くパワーポジションに入れるようになったので、ケガが減っています。それに伴い踏み切りも安定してできるようになってきました」

GGP後はタンブルウィードTCがヨーロッパで拠点としているイタリアに行き、レイダー氏に直接動きを見てもらった。

日本選手権で目指すのは8m40以上

日本選手権の橋岡はどこに注目したらいいのだろうか。
すでにパリ五輪の標準記録は突破しているので、優勝すれば代表が内定する。だが橋岡がやりたいのは、新しい助走を安定させて記録に結びつけ、パリ五輪へのステップとなる結果だ。まずは試技前半でのファウルを少なくできているかどうか。GGPの際は次のように話していた。

「前半試技で助走距離が右往左往してしまいました。1本目からある程度(内容が)まとめた助走ができなかったところが、今の自分の弱さです。1本目から納得できる助走をして、試技を進める中で修正を徐々にして、5本目あたりで良い記録を出す試合運びをしたい」

前半試技のファウルが少なければ、GGPの5、6本目のような跳躍がファウルにならずにできる。

「パリ五輪の目標はメダルですけど、まだそこに手が届くような準備はできていません。やっと準備の第1段階に入れたのかなという状況です。これからもっと詰めていって、日本選手権ではある程度良い感覚を得ておきたいです」

橋岡がつかむ技術的な手応えが最も重要だが、その結果が日本記録更新という形になって表れることがベストの形だ。パリ五輪に向けて思い切り踏み切った、と言えるような跳躍を新潟で見られるだろうか。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)