第2次岸田改造内閣が10日、発足しました。衆院選、参院選と2つの選挙をクリアして選挙のない「黄金の3年間」を手にした岸田政権は、いよいよ「何をやるか」が問われるステージに入りました。変化が激しい世界の中、この数年間の政策は、21世紀半ばの日本の行く末を決めることになりそうです。
中でも、ウクライナ戦争や中国の攻撃的な姿勢など、安全保障環境の変化への対応が、その最優先課題であることは間違いありませんが、他方、経済政策についても、コロナ対策、経済再生、物価対策、異次元緩和の検証など問題は山積みです。経済政策で喫緊の課題は、何と言っても、エネルギー危機への対応でしょう。なぜなら、目の前のエネルギー危機に対処できなければ、成長もできず、国富は流出し、国民は物価高に苦しむしかないからです。繰り返される節電要請に、冬には節ガス要請まで準備され、その上、電気代もガス代も前年比で3割も高くなれば、企業も家庭もやっていけません。
最も恐れられているシナリオが、サハリン2からのLNG(液化天然ガス)輸入が途絶することです。先日インタビューした、東京ガスの内田高史社長は「サハリン2からのLNGが止まるようなことになれば、本当に大変なことになる」と危機感を露にしていました。サハリン2からのLNGは、今現在、契約通り支障なく輸入されているとのことですが、ロシア側が新たな運営主体を設立し、先行きの不透明さが一段と増しています。サハリン2からの輸入量は600万トンと、日本の天然ガス輸入全体の9%程度を占めています。仮にこれが途絶すれば、他の調達先を探さなければなりませんが、内田社長は「すでに話を始めているが、交渉はなかなか難しい」と語ります。まずは、サハリン2以外の既存の契約先に増量を打診しているとのことですが、供給能力はすぐには増やせないと言います。
天然ガスはそもそも貯蔵しにくい商品なので、取り引きは長期契約が主体で、短期のスポット市場は小さく、とても600万トンもの量を確保することは難しそうです。しかも、その小さなスポットで、よりガス不足に悩む欧州と日本の取り合いが起きるとなると、スポット価格はとんでもない高値になってしまうでしょう。アジアでの天然ガスのスポット価格は現在でも百万BTUあたり40ドル前後と歴史的な高値です。一方、サハリン2からの調達価格は、長期契約なので「10ドルより少し高いぐらい」(内田社長)と言います。代替LNGは、調達できたとしても大変な国富の流出になるのです。
もし、必要量が確保できなければ、その分、節ガスしなければなりません。しかし、家庭用の節ガスには限りがある上、輸入LNGの半分は発電用なので、それを絞らなければ節ガスは達成できません。そうなると、逼迫している電力がますます足りなくなってしまいます。私たちが直面しているのは、まさに総合エネルギー危機なのです。
資源のない日本にとって、エネルギーの安定供給を確保することは政治の使命です。そして、その価格高騰を最小限に抑えることも政治の使命です。岸田政権はガソリンや灯油への補助金対策は行っていますが、電気代やガス代には手つかずです。原子力発電についても岸田内閣は、「この冬に9基の原発を稼働させる」とあたかも新しいことをやったかのような言い方ですが、実際は、この9基はすでに再稼働している原発ばかりで、何か新しいことをやったわけではありません。
「人の話を聞き」「検討を進める」だけでは、政策にはなりません。まずは、エネルギーを安定供給し、その価格を下げることこそが、最大の成長戦略であり、最大の物価対策なのです。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)
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