岸田総理は9日午後、現職の総理として初めて長崎市の原爆資料館を訪問しました。
また、『被爆体験者救済事業』の対象となる疾病に ”がんの一部” を追加する考えを示しました。

■ 現役総理として ”原爆資料館” へ

9日午後2時前、田上長崎市長らとともに原爆資料館を訪れた岸田総理。

資料館の篠崎 佳子館長から説明を受けながら、およそ20分かけて長崎の被爆の実相を示す展示物を見て回りました。

■ 長崎の被爆者4団体「広島と同様の救済を」

これに先立ち、岸田総理は長崎の被爆者4団体の代表と面会し、核兵器禁止条約への署名・批准や長崎の被爆体験者の被爆者認定などを求める要望書を受け取りました。


長崎県平和運動センター被爆連 川野浩一議長:
「長崎でも当然、放射能、黒い雨も降っています。被爆体験者は名実ともに被爆者です。ぜひご検討いただきたい」

これに対して岸田総理は、被爆体験者の高齢化を踏まえ、現在の『被爆体験者救済事業』の対象疾病に、”がんの一部” を追加する考えを示しました。


岸田 文雄 総理:
「被爆体験者の皆さまの高齢化が進む中、現在の被爆体験者事業にがんの一部を追加することを至急検討したいと考えています。
来年の4月より医療費支給を開始できるよう、事業の性質に照らし、どのようながんを対象とできるかなどについて速やかに厚生労働省に検討させたい」

また核兵器禁止条約については、核保有国と非保有国の橋渡し役として、各国への働きかけを含めた『現実的な取り組みを進める』とする従来の考えを述べるに留まりました。

■ 国に提出した ”専門家会議の報告書” について言及なし

全国被爆体験者協議会 岩永 千代子 代表(86):
「一言で言うならば唖然とした」
被爆体験者 濵田 武男さん:
「誰が喜びますか」

岸田総理が被爆体験者事業の対象疾患に ”がんの一部” を追加する意向を示したことに対し、被爆体験者は「要望とかけ離れている」と反発しています。


被爆体験者訴訟 弁護団 三宅 敬英 弁護士:
「どのがんを認めるかが分からないけど、『(精神疾患との)起因性を否認』しておいて、『がんの一部だけ認める』というのは、どんな論理構造なのか分からない。
小手先を重ねていくのではなく一括解決すべき時期に来ていると思うのに、時間の引き延ばをしている」


被爆体験者事業は長崎原爆だけの制度です。
爆心地から半径12キロ圏内で原爆に遭いながら、国が定める被爆地域の外にいた人に対し、被爆体験による『精神疾患』と『その合併症』に限り医療費を助成しているもので、これまで『がん』は ”精神疾患と関係ない” として対象外でした。


広島では、裁判をきっかけに、『国の援護区域外にいた人達』を ”被爆者” と認める新たな基準が4月から運用されています。
岸田総理が9日に示した『がんの一部追加』は、”広島と同様の救済” を求める被爆体験者の訴えと乖離しています。
また長崎県が救済の根拠として国に提出した科学的・法的な専門家会議の報告書についても言及はありませんでした。


被爆体験者 山内 武さん:
「専門家を立てて検証して国の方に持って行ってるのに『それを見たのか!?』と思う。どこかで止まって…口先だけ『がんくらいはちょっと認めてやろうじゃないか』となったのか?県も腹くくって国と喧嘩してもらいたい」

被爆体験者を巡っては10日、長崎地裁で裁判が予定されており、被爆体験者が被告の県と長崎市に申し入れている『和解』について、裁判所の判断が注目されます。