SDGs達成期限の2030年に向けた新たな価値観、生き方を語る今回の賢者は歌手の野口五郎氏。実は複数の特許を持つ発明家でもある。コロナ禍前からいち早くQRコードを使ったライブ動画配信システムを開発。今、大学教授らとともに研究開発を進めているのが脳の活性化や認知症治療の有効性も期待されているという「音」だ。研究の内容はイギリスの科学誌にも掲載された。その正体とは? 2030年に向けた新たな視点、生き方のヒントを聞く。

体が喜ぶ音とは?「会話のないところに豊かさはない」

――賢者の方には「わたしのStyle2030」と題して、話していただくテーマをSDGs17の項目の中から選んでいただいています。野口さん、まずは何番でしょうか?

野口五郎氏:
ちょっと俯瞰で、相対的に全部かなっていう。

――全部は初めてですね。SDGs17項目の実現に向けた野口さんの提言をお願いします。

野口五郎氏:
「未来へ引き継ぐべきは豊かさ」ということでお願いします。

――ということは、野口さんからご覧になって、今の社会は豊かではないと。

野口五郎氏:
これから先どんどんそうなっていくんでしょうねっていうふうには思います。アナログの世界で生きていたときには、いいものって時間はかかるけど評判って大事だよなとか、いろんなことを自分の中で考えたりしたんですけど、そういうものを全て飛び越えて、デジタルの世界になってくると、便利にかなうものはないなって思ってくるんですね。便利になっていけばいくほど、何かすごく大切なものを置き去りにしていくような気がするんです。

――便利になることを否定するのは難しいと思いますが、それをあえておっしゃっている。

野口五郎氏:
そうですね。食べることに関してもすごく慎重だったはずなんですよね。ところが、だんだんそういうことを置き去りにして、もっと便利を選択するようになってしまったんですよね。クリックすれば来る。例えば、中華丼を一つ頼むにしても、お店に入る前にウィンドウを見て、サンプリングで大体こうなんだろうなと思いながら、それを目安にして頼んだりしたんですけど、全く見ないで食べますでしょう。

――店主とコミュニケーションすることもありません。便利さを手にした代わりに、本来私達がやっていたことを省略しているということですよね。

野口五郎氏:
会話はないですよね。そこに「豊か」があるかなっていう。便利に拍車が今かかっています。それを止めることもできないし、今それをやめて昔に帰ろうよっていうわけにはいかないんですよ、みんながもうそっちを見ているわけですから。ただ、僕らはとりあえず「豊か」を感じているし、目で見ているし、知っているし、それを疑似でもいいから残しておかなきゃいけないんじゃないかと。全く豊かさも知らない世代になっていってしまったときに、僕らが取り返しのつかないことをしてしまっているんじゃないかなと思っちゃうんですよね。

――戻れない代わりに何を付け加えていくかということですね。

野口五郎氏:
たとえそれが別のものであったとしても、疑似であったとしても、僕はどうやってその豊かさを残していけるかなっていうのを今ずっと考えているっていうか、自分が歌ってきているからこそ、余計にそれを考えるんです。

――いつごろから豊かさが失われていると感じるようになったんですか。

野口五郎氏:

一番わかりやすいところで言いますと、ずっと僕はレコードだったんですね。レコードってすごいのは溝の中に本当に音が入っているので、再現性という意味では本当に再現性だと思うんです。CDになったときには、一度コンバーターを使って信号に変換するんです。もう1回コンバーターを使って元に戻して音を再現するんですけど、これを本当に再現っていう言葉を使えるのかな。角ばっちゃっているんですよ、「0」と「1」ですから。99.9%ニアだけど、別物なのかなって思えるんですね。

アナログのレコードは音の振動が刻み込まれた溝に針が触れることで音が出る。波形は滑らかな曲線。一方、デジタルのCDは音を0と1の情報に置き換えて表現するので、波形はカクカク。野口氏はレコードは再現、CDは限りなく近いけど別物だという。この違いは音にどんな変化をもたらしたのだろうか。

野口五郎氏:
最初にCDを聞いたときには耳が喜んだんです。すごくクリアできれいだな。今までレコードで聞こえない音が聞こえた。でも、本当は聞こえない音が聞こえちゃいけなかったんですよね。クリアに聞こえるから耳は喜んだんですけど、実は体は喜んでいなかった。

――体が喜ばないってどういうことですか。

野口五郎氏:
CDは容量が重いので、13Hz以下の低い音は消しているんです。人間の可聴域は20Hzから20kHzなんですけど、20Hz以下は非可聴で聞こえないから13Hz以下は消しちゃってもいいだろうと。土台がなくなっちゃったわけです。非可聴であったとしても、一番低い音がないっていうことです。

――人間が聞こえないだけで、音はあるわけですね。

野口五郎氏:
クリアっていうことは、その辺はいらないだろうって勝手にデジタルの方で判断して消しちゃっているんですね。デジタルの音って人間が誕生して今初めて聞く音なんです。倍音であったり、アンビエンス、響きであったりとか、そういったものを消してしまっていると思ったら、それはストレスが溜まると思いませんか?演奏者が思いを乗せるじゃないですか。この思いというのは、アンビエンスとか倍音に乗せるんだと僕は思っているんです。