生徒の命を守るため

藤原さんは校長として、ある提案をしました。

剣太さんの死から3年を経た2012年8月22日。まだ裁判が続く中で、学校は剣太さんの命日を「健康・安全の日」と制定。

尊い命が失われたことを「我が事」としてとらえるため毎年集会を実施し、熱中症を想定した緊急対応訓練などを行っています。

大分県立竹田高校 元校長 藤原崇能 さん
「無念にも亡くなったご本人の霊を慰め続けることは、学校の責任だと思いました。健康・安全の日の1番大きな意味は、1つの意思表明の日だと。生徒の健康安全を守る、最優先だという姿勢を全校に向かって表明する」

校長として毎年この日を迎えていた合澤さんは、自問自答を繰り返してきました。

大分県立竹田高校 合澤哲郎校長(2023年取材当時)
「(当時)剣道場にいたら、剣太くんの様子がおかしいというのは絶対気づいたと思うんです。ただその時に自分よりも剣道の経験があって、しかも興奮している顧問を制止して、『これはおかしい』『救急車呼びましょう』と言えたかと常に考えるんです。でも、それをそのままにしていたら、結局同じことになってしまう。行動を起こさなければ命は救えないと私も今思っているんですよね」

生徒の命を守る。その安全対策を徹底する竹田高校。

母・奈美さん
「今だったら剣太は死んでいないとすごく感じています。どう学校側が捉えて、どう変わっていくのかだと思うんですよね。子どもたちの尊い命を守るように、今周りが動いてくれているよ。あなたが17年生きてきて命を落としてしまったけど、それは決して私たちは無駄にはしたくなかったし、無駄になっていないと信じているので、お父さんとお母さんが動ける間は、剣ちゃんもう少し一緒に頑張ろうねと」

我が子を失った悲しみが消えることはありません。しかし同じ悲劇を繰り返さない、その強い思いは着実に実を結んでいます。

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取材後記 下地麗子

 学校で起こる事件事故について、全国で講演活動を行う母・奈美さんは、「今の竹田高校は大分県で一番安全な学校」だと参加者たちに語るそうです。問題が起きると、学校組織はそれをタブー視し閉鎖的になりがちです。良識ある教員たちの口は閉ざされ、物言わぬ不安が広がり、それは生徒たちにも伝わっていきます。

 2012年、竹田高校の校長着任当時、「みんなが不幸だ」と感じた藤原崇能さん。
同年に「健康・安全の日」を制定したときは、遺族と行政などとの間でまだ裁判が行われていましたが、この日を設けることに迷いはなかったそうです。学校が「問題に向き合う」と覚悟し表明したことで、教員や生徒たちは、問題について意見が言いやすい風通しの良い環境になったのではないでしょうか。

 竹田高校の取材をしながら、何度も沖縄のコザ高校と、その時々の状況を重ねました。竹田高校の当時の教員や生徒たちが苦しんだように、同様の不安がコザ高校にも広がっていたのではないか…。

 コザ高校の男子生徒が自死して3年が経ちます。コザ高校からは、いまだ再発防止に向けた具体的な動きは見えてきません。男子生徒の遺族は、学校側に対し二度と同じ悲劇を起こさないよう再発防止に向けた取り組みを求めています。