防衛費増額分を地震対策に充てることこそ「国防」

少し横道にそれますが、バブルの崩壊前、作家・村上龍さんが書いた「あの金で何が買えたか」という絵本が話題になったことがあります。経営が傾いた金融機関の救済や不良債権処理のために投入された総額12兆円以上の公的資金、そのうち1銀行に投入されたお金で米IT企業大手Appleが買えたとか、パレスチナの復興や世界の砂漠化防止もできたとか、お金の使い道と価値を考えさせる本でした。

また、東京新聞は去年6月の紙面で、防衛費が国内総生産(GDP)の1%から2%になることで増える、年間5兆円の予算を別のことに使ったら何ができるか、を紹介しました。大学の授業料無償化はおよそ1兆8000億円、小中学校の給食無償化は5000億円ほどででき、消費税を10%から8%に戻して物価高対策に充てることも可能だと解説しました。

話を首都直下地震対策に戻すと、経済被害を4割削減するために必要とされる21兆円も、この増額分を充てれば4年で賄える計算です。首都直下は30年以内に70%、南海トラフに至っては40年以内に90%という発生確率とされますから、これこそ国防費だろうという意見もあります。一方、各地で戦争が起き、北朝鮮や台湾海峡など火種を抱える中、防衛費増額はやむを得ないという主張もあります。

優先順位を決める政治家を選ぶのは私たち

どれが大事だと思うかは、人それぞれでしょう。ただ、その優先順位を決めるのは政治で、政治家を選ぶのは私たち国民です。実際、旧民主党は公共事業費を減らして社会保障費を増やす方針を「コンクリートから人へ」のキャッチフレーズで訴えて政権交代を実現しました。

結局、内部崩壊で政権は自滅し、復活した自民党政権では、国土強靭化を軸に公共事業費が増え、防衛費も倍増し、さらに少子化の加速で、民主党政権当時は批判していた子育て支援にも大きな予算を付けざるを得なくなって、増税や社会保険料の増額――というのが、ここ20年程の歩みです。

今、国会は裏金問題でほぼ一色ですが、予算の優先順位付けというのは、私たちの生活や将来に直結する大事な問題です。現状が自分の優先順位と合っているのか、いないのか、しっかり見極めて、選挙で意思表示しましょう。それが、今日の結論です。

◎潟永秀一郎(がたなが しゅういちろう)

1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。