森口さんが失ったもの
森口さんは、事件から約10か月後にようやく保釈が認められた。小さかった息子は、会えなかった期間に大きくなっていた。当時勤めていた会社は「自主退職」を余儀なくされ仕事も失った。
森口流星さん(25)「やっと保釈が認められて、約1年ぶりに息子に会うことができ、信じられないほど大きくなっていてうれしかったのと同時に、息子の成長を見られなかったことがとても悲しかったです。保釈後も長い間、妻と息子と一緒に暮らすことが許されませんでした。犯人扱いされているようで、友人や知人からも疑われているようで、人目を気にしながらの生活は本当に嫌でした」
長男と引き離されたのは父親である森口さんだけではなかった。長男は事件後、児童相談所に保護された。母親である妻も面会させてもらえなかったという。
(以下、弁護団によると)
事件発生から約2か月後、まだ逮捕前だった森口さんと妻は、児童相談所の職員から、”父親が暴行して長男を骨折させたこと”を前提に今後どうしていくべきか家族で話し合いをするよう言われたという。2人は、「やっていないのにそんな話をするのはおかしい」と反論したが、職員から「あなたたちは何をしたのか分かっていますか」と強い口調で言われたと話す。弁護団によると、児童相談所から長男を返す条件として提示されたのは、当時専業主婦だった母親が仕事をすることと、日中、長男を保育園に入れることだった。その後、森口さんが逮捕され、妻は仕事を始めた。それでも児相から子供を返してはもらえなかった。
事件から3か月後の2021年9月。妻の面会が認められた。ただ、月1回、1回につき1時間以内、付添人をつけることが条件だった。
2021年12月。児童相談所から「複数人で常に長男を見られる環境でないと子供を返せない」と言われた。森口さんの妻は、親戚と一緒に暮らすため、引っ越しを余儀なくされた。
2022年6月、妻のもとへ長男が返された。事件から1年がたっていた。
あの日何が起きたのか「知っている人がいたら名乗り出てほしい」
無罪が確定した森口流星さん(25)「裁判では研修医が骨折させた可能性があると判断されました。検察官はそれ以外の可能性を一切立証できませんでした。研修医が骨折をさせたのであれば、それを研修医自身が病院に隠したか、病院側が組織的に隠ぺいしたのかどちらかです。どんな医療現場でも事故は起こると思います。私が病院に言いたいのは、いざ事故が起きたときに保身に走るのではなく、再発防止を最優先に考えてもらいたいということです。もし好生館に勤務する医師、放射線技師、看護師、その他の医療従事者でこの事件の真相を知っている方がいましたら名乗り出てほしいです。どうか病院をみんなが安心して利用できる場にしてください」
あの日、病院内で何があったのか。森口さんと弁護団は、「知っている人がいたら名乗り出てほしい」と呼びかけている。