裁判の争点骨折がいつ起きたのか

密室である家庭の中で起きた事件。弁護団は「協力医の存在なしには立証は難しかった」と語る。

森口さんは長男に暴行したのか、していないのか。公判では、
(1)森口さんが自宅で暴行を加えて骨折したのか。
(2)医療機関に引き渡したあとに骨折したのか。

つまり、長男の右腕の骨折が「いつ起きたのか」が争点となった。

弁護団の説明をもとに事件当日を時系列で振り返る。

【午前2時】森口さんが仕事から帰宅。
【午前6時31分】森口さんが長男を膝にのせてあやしている様子を妻が写真に収める。この写真には長男が右手でおもちゃを持っている様子が映っており、この時点では骨は折れていなかったとみられる。
【午前6時40分】寝室で長男が大泣きし始める。別室で洗濯物を干していた妻がすぐに駆け付けた。妻は森口さんが長男へ駆け寄っていく瞬間を目撃している。両親は長男が腕を動かさないことに気づいた。「ぶらんとしていた」と証言。
【午前7時11分】佐賀県医療センター好生館に電話
【午前7時30分】病棟へ入る
【午前7時51分~8時1分】レントゲン撮影で「上腕骨骨幹部骨折」が発覚。
【午前8時2分】長男の写真撮影開始(カルテ伝送)

弁護側の主張「長男は寝返りで起きる『肘内障』だった」

弁護側は、長男は「肘内障」だったと主張した。「亜脱臼」ともいい、子供によく起こるものだという。肘内障の所見は「腕を動かさない、だらんとする」「痛がる」「腫れは生じない」。両親の証言とも一致すると述べた。

肘内障は「6か月または5か月以下は寝返りで起きる」とされている。長男の骨折はねじったように折れる「ら旋骨折」だった。

弁護側の証人として法廷にたった医師は、「ら旋骨折」について「肩も肘も固定された状態で前腕が回旋した場合」に生じると述べ、「医療関係者により過度な整復作業(骨を正常な位置に戻すこと)が行われることによって生じる可能性がある」と証言した。

午前8時2分に病院で撮影された長男の右腕の写真には、洋服の袖まつり縫いの跡が残っていた。弁護団は跡が残る時間を調べる実験をしたうえで、「整復作業の際に強く握って腕を回したのではないか」と主張した。