◆益子尚真内野手(東北大学 経済学部)

益子尚真さん

Q.イチローさんが与えてくれた事は自分の人生をどう変えました?
益子尚真(ますこ しょうま):

部活の後に後輩と東京ドームに巨人戦を観に行った時に、新宿高校の野球部のカバンを持っていたんですけど「君たち新宿高校なの?イチロー来たところだよね。見てたよ。頑張ってね」と声を掛けられたり。地元の駐輪場のおじさんにも「おはようございます」と挨拶したら「イチロー来たんだね」という事を言われて。周りから見られているんだな、「イチローさんが来たところ」って。「新宿高校の野球部だ」って思われる事が増えて、周りから見てもらえている事は誇らしかったですけど「イチローさん来たのに、これだけなの?」って思われないようにというのは意識して「ちゃんとやろう」というのはありました。日常の行動、電車の中とかも見られていると思いしっかりやろうと。

正直な事を言うと、僕は勉強が好きではないのできつかったし、途中で楽しくなくなったんですけど。引退した後は野球も無くて、勉強、勉強、勉強。ご飯がめっちゃ楽しいみたいな時期もあって、10キロぐらい太ったんですけど、それでも勉強やらなきゃなって。

Q.どうやって乗り切ったんですか?
益子:
ここで諦めたりするのはダサいというのがあって。イチローさんはずっと努力をしてきた、努力の人というイメージ。自分達よりも練習しているし、野球に対して打ち込んでいたし、そういう人が安打の記録を作ったり、今高校生に野球を教えているのを見て、かっこいいなと。自分は野球は上手くないし、イチローさんみたいに取り組めなかったですけど、自分が目指した事に対しては途中であきらめるのはダサいと思っていましたし、イチローさんを見て、もっとやっていきたいというか、決めた事はしっかりやろう、ここで辞めたらカッコ悪いと思ってやってきました。
まだ将来何をやりたいかが見つかっていなくて、さまよっているんですけど、どうしても人の役に立ちたいと思っていて。まだ短いですけど人生を振り返ってみた時にすごく周りに恵まれていたという印象があって。

イチローさんが来て下さったのも「野球の普及活動をしているから」って言ってくれたんですけど、それって自分たちが始めたわけではなくて、前の先輩の代から積み上げてきて、偶然イチローさんが僕達の代で来てくれた。それはラッキーだったと思いますし、引退した後、平日も休日も野球部のメンバーと一緒に勉強をしていたからやりきれた、乗り越えられたというのもあります。本当に周りの人に恵まれているなと思っていて。今まで人から受けてきたから、役に立ちたいというのが漠然とあって。経済学部に行くんですけど、人の役に立てる仕事、地域との関連だったり、お金の動きだったり、経済的な社会問題について研究して、解決しようとする学問でもあるので、そこで学んで人々の役に立ちたいし、そういう大人になりたいです。

◆二宮康祐内野手(明治大学 理工学部)

二宮康祐さん

二宮康祐(にのみや こうすけ):
一番思い出に残っているのはノック。これ以上体を伸ばしても捕れない、もう動けないという初めて限界を味わったノック。今まで全力って言って何回もやってきたけど、本当の本気を知りました。

Q.「今の感触覚えておいてよ」って言われましたよね。
二宮:
はい。言われました。一生忘れないと思います。体が覚えているという感じですね。例えば勉強とかでもう辞めたいなと思う時は正直ありました。今日はこれでいいかと思う時もあったんですけど、まだ全力を出さないといけないなと。イチローさんに見られている気がして、もう少し頑張ろう、あと1、2時間頑張ろうと奮い立たせながらやっていました。

Q.他のメンバーにも印象残っている言葉を聞いたら「ちゃんとやってよ」だったんですけど。
二宮:
僕も同じです。同じ言葉を田久保監督にも言われていますし、みんなも同じ事を思っていると思います。ああいう何気ない言葉で奮い立つのかなと思いますね。この先どうなるかは分からないじゃないですか。でもその中で、立ち止まる事とか悩む事ってあると思うので、そういう時にこそ、イチローさんを思い出して、イチローさんを思い浮かべただけで「頑張ろう」って自分の中ではなれるので。将来の夢はまだ決まっていないですけど、絶対この先に生かせると思っていますし、死ぬまで忘れない思い出だと思うので、頑張っていきたいと思います。20歳になって、10年後、20年後、仲間に会った時にあの時の事を語れると思いますし、その思い出を共有できるのがいいですね。将来、自分の子どもにも自慢します。他の人には出来ない経験だったと思うので。

イチロー氏

イチロー氏は当時、新宿高校の指導を終えた後にこう語っていた。

「彼らにとって野球がメインじゃない。野球好きだけど、そこまで突き詰める気持ちは無かったと思うんだけど、野球も真剣に目的を持ってやると、きっと目指している勉強のその先にある何か、それにも繋がるという事を学んでくれるんだろうなという期待をしています」

そしてこの日、門出の日を迎えた新宿高校の3年生。翌日、春季大会を戦う後輩たちに最後のメッセ-ジを伝え、イチロー氏と汗を流したグラウンドを後にした。この先彼らがまた苦難に直面した時も、「ちゃんとやってよ」、きっとこの言葉が聞こえてくるはずだ。

※写真は左から益子尚真さん、二宮康祐さん、中澤志弥さん、清水大賀さん