■「今、日銀は必ず負けるゲームをやっていると思います」

番組では、スイスのヘッジファンドで1000億円を動かす情報戦略の責任者を取材した。彼らは何を考え円売りを進め、この先どうしようと考えているのだろうか?

EDLキャピタル CIO エドゥアール・ドラングラード氏
「今も円を売っています。1ドル105円、107円だった時から、150円くらいまではいくんじゃないかと見ているんです。(中略)私は今のような世界的インフレが起こると予想していました。それでまずは日本以外の中央銀行が利上げに踏み切り、その流れでアメリカと日本の金利差が生まれ円安が進み、日本の投資家も円を売ってドルを買う環境になると予想していました」海外のヘッジファンドが日本円が競争力を失うと読んだ最大の問題は、「イールドカーブ・コントロール」という政策を日銀が続けていることだ。
「イールドカーブ・コントロール」とは、長期金利を0%近くに抑え込むために国債を買い支える政策であり、主要国の中央銀行は手を出さない政策だ。やっているのは日本だけ。

EDLキャピタル CIO エドゥアール・ドラングラード氏
今、日銀は必ず負けるゲームをやっていると思います。デフレだったり、インフレがあまり進まなかった時はウィンウィンでした。しかし、インフレ環境になり円安が進み債務残高がGDPの2.5倍になっている今では、長期金利を抑え込む政策は火遊びのようなものです。どこかの時点で日銀は海外のように利上げをせざるを得ないということです。日銀の現在の政策は大間違いだと思います。金融緩和政策を変えない限り円安はこれからも進み、円売りで私たちは儲かるでしょう」

日銀の金融緩和策も、国債の買い支えも“禁じ手”“異次元”と言われながらまさに“頑な”に続けている。安倍政権下でデフレという重い病を治すために副作用が分かっていながら飲んだ薬が黒田路線だった。その金融政策という薬は、飲んでいる間に、政府が財政健全化と成長戦略といういわば“体質改善”してこそ効くものだったのに、いつしかそれ忘れ去られ金融政策という薬だけに頼るものに変質していたのだ。そしてそれを強いていたのがアベノミクスの生みの親、安倍元総理だった。
デフレからインフレに変わり、その安倍元総理が亡くなった今、岸田総理も同じ薬を日本と言う患者に“頑な”に飲み続けさせるなら、私たちには何が待っているのだろうか?

■「今の物価は1ドル120円の分。まだまだ上がる

海外のヘッジファンドに“大間違い”“火遊び”と言われた日銀の下、私たちの生活はどうなっていくのだろうか?

元日本銀行理事 早川英男氏
「円安は150円を超えるとは思ってないんですが、物価が上がるのはこれからなんです。今までの物価上昇は原油高とか、小麦が上がったりの影響で、この最近の円安が物価に表れるのは夏から秋くらい。今の物価上昇は1ドル120円くらいの円安の分。その後の分はまだまだ全然反映していない。物価はこれからまだまだ上がる。それで国民の不満が高まる。政権は維持できない。だから俺たちの勝ちだっていうのがヘッジファンドの見立て」

国民が政権を揺るがすほど不満を噴出させるまで日銀は動かないのだろう…。そんな中央銀行でいいのだろうか?

経済評論家 加谷珪一氏
「市場関係者は何故これほど日銀が頑ななのか不思議に思っている。金融政策が大胆に変更される可能性が低いことは市場関係者のコンセンサスなんです。ですけれど“日銀文学”と言う言葉がありまして、早川さんの前でいうのも何なんですが、日銀総裁というのは色んな曖昧なことを言って市場関係者に色々な思惑を発生させるっていうテクニックがある。政策変更はしないとしても“変更があるかも”という含みを持たせることで円安を止めることも可能なはず。なのにそれをまったくやらずにむしろ直球で市場とぶつかるような発言をするのは何故なのか。何故ここまでと、以前から気にはなっていました」

市場関係者が首をかしげる頑なさによって窮地に追い込まれた日本経済。ちなみに黒田総裁の任期満了は、来年2023年の4月8日だ。あと1年。円と物価はどう動くのか…。

BS‐TBS『報道1930』 7月19日放送より)