この快挙が野球やサッカーであれば、どれだけのメディアが注目したのだろうと思う。
欧州最強クラブを決定するヨーロッパチャンピオンズリーグ。サッカーで日本人が出場すれば高い注目を集めるが、実はハンドボールでもこのビックイベントに出場し続ける女性アスリートがいる。

沖縄県浦添市出身の池原綾香(デンマーク・オーデンセ所属、31歳)は、日本リーグを経て、2017年、オリンピックで過去3度の優勝を誇るデンマークに渡った。2017-18シーズンにリーグベスト7を受賞すると、これまで日本人選手の出場が一度もなかったヨーロッパチャンピオンズリーグに3度も出場するという快挙を更新し続けている。
158センチという小柄な体で、170センチを超えるヨーロッパの大型選手と戦い続ける池原。それは自身の体を極限まで磨き上げる、過酷な作業だ。
◆「泣き虫だった少女」が夢見た東京オリンピック

「私すごく泣き虫だったんですよ、負けたら泣くし、調子悪かったら泣くし。ちょっと控えめであまり自分が出せないタイプだったんです」
競技を始めたのは小学5年生のときをこう振り返った池原。泣き虫だった少女が、一人デンマークに渡ったのは、東京オリンピックに向けて、プレーはもちろん「人間性」を高めたかったからだったという。
「プレー面で成長したい思いプラス『人間性』、人間的に成長したい、自分が変わりたいと思っていたので、自分から積極的にガンガン話に行ってそこから少しずつ自分が変われたような気がして」
そうして、2017年にデンマークに渡ると、その年の世界選手権は日本代表としてチーム最多の29得点の活躍、シュート成功率81%という驚異的な数字をたたき出した。大会3位のオランダに延長の末敗れベスト16にとどまったが、東京オリンピックの向け大きな収穫を得た大会となった。
◆度重なる苦難 けが&コロナ禍
しかしその後、様々なアクシデントが待ち受けていた。
2019年1月、デンマークでの試合中に右膝の前十字靭帯断裂と半月板を損傷し復帰まで8か月という診断を受けた。日本やデンマークでリハビリを重ね、2019年12月世界選手権(熊本)で日本代表に復帰した。

しかし2020年、次は世界がパンデミックに見舞われた。デンマークで、コロナ禍をむかえた池原。チーム活動も休止となりデンマークで一人トレーニングする日々が続いた。
「もどかしい日々という、なかなか自分の万全の状態に持っていけない日々がすごく苦しくて」
◆痛みを抱え望んでいたオリンピック
様々な苦難を経て、去年6月、ようやく東京オリンピックの代表に内定した池原は涙ながらにこう語った。
「コロナ禍でもあるので、国民の一般の意見としては不安というのが大きいと思うんですけど。ここにかける思いは強いですし、自分たちがスポーツで元気や勇気を与えられるプレーをしたい。このオリンピックでみんなに思いが届くように」
30歳をむかえていた池原に、けがは絶えることがなかった。158センチの小柄な体で、170センチを超えるヨーロッパの大型選手と戦う日々。身体接触が激しく、スピーディーな攻防が展開されるハンドボールにおいて、体への負担は計り知れない。オリンピックをむかえても、かかとに痛みを抱えた状態で、集大成の舞台に立っていた。
「歩くのも痛かったぐらいだったんですけど、そんなことは言っていられない。自分もこれにかけていましたし」
泣き虫だった少女がつかんだ夢の舞台。

日本は1勝4敗で予選ラウンド敗退に終わったが、モンテネグロ戦ではモントリオール大会以来45年ぶりの勝利。このとき池原は、両チーム最多タイの6得点の活躍、シュート成功率100%をたたき出し日本の歴史的勝利に貢献した。