「成長と財政規律」の両立を強調し、定性的には市場に一定の安心感
読売新聞は8月28日付朝刊で高市総理のインタビューを掲載した。高市総理は、成長戦略を積極的に進める一方で財政規律も維持する考えを示し、経済成長と財政健全化の両立を目指す姿勢を改めて強調した。また、2年間限定で実施する方針の食料品消費税減税については、「十分な財源を確保できるとの確信を持っている」と説明したうえで、「2年後に確実に(税率を)元に戻す」と明言した。これらの発言は、定性的には財政規律に対する市場の懸念を一定程度和らげる効果があると考えられる。
もっとも、市場にとって重要なのは今後の予算編成である。高市総理は、今月末に概算要求を締め切る27年度予算について、「国内投資を生み出す政策にちゅうちょなく財政支出を行う」と語った。その上で、「新規国債発行額は40兆円程度に抑える考えを示した」という。
「補正主導型から当初予算主導型への移行期」における不確実性が残る
インタビューの詳細をみると、新規国債発行額40兆円についての言及は「私の就任後の25年度の補正予算は一般歳出の増加は4.1兆円だったが、前年度より税収が7.3兆円増加したことで補正後の国債発行額は前年度以下の40兆円程度に抑えている」という文脈で行われていた。新規国債発行額については、26年度当初予算における新規国債発行額は約29.6兆円であり、その後の補正予算を反映した補正後ベースでも約32.7兆円である。仮に高市総理が25年度補正後の新規国債発行額(40.3兆円程度)を念頭に置いているのであれば、やや拡張的と捉えられるかもしれない。特に、27年度補正予算について、高市総理は補正予算偏重からの脱却を強調しているが、現時点では見通しが難しいという不確実性がある。少なくとも予算編成手法が固まるまでは、財政規律への不安は残り続けるだろう。
また、当初予算と補正予算を合わせたベースで新規国債発行額は40兆円程度が基準と考えているのであれば、26年度秋・冬の補正予算の行方も気になる。現時点の26年度補正後ベースは新規国債発行額が約32.7兆円にとどまっており、40兆円との間には大きな開きが存在する。そうなると、26年秋から冬にかけて編成される可能性が高い第2次補正予算において、このギャップが意識されて、数兆円規模の国債増発を伴う追加経済対策が議論される可能性も否定できない。
そもそも高市総理は、補正予算で毎年大規模な経済対策を積み上げる現在の予算編成手法に批判的であることで知られている。そのため、27年度以降は、従来であれば補正予算に盛り込まれていた経済対策を、当初予算の段階から織り込む方向へ転換する可能性が高い。しかし、予算編成方式の転換期には様々な不確定要素が発生する。例えば、①従来であれば26年度秋・冬の補正予算に計上されていた経済対策を27年度当初予算へ移すのであれば、26年度第2次補正予算は小規模なものとなるだろう。他方で、②補正予算が小さくなるのは27年度補正からだということになれば、26年度秋・冬の補正は、従来通りの大型補正になる可能性もある。
26-27年度は「補正主導型から当初予算主導型への移行期」となる公算である。そのため、従来の補正予算が縮小するのか、それとも当面は従来型の大型補正が継続するのかが見通しにくい。予算編成手法そのものが変化する過渡期であるだけに、市場にとっては不確実性の高い局面と言えるだろう。少なくとも現時点では、26年度秋・冬の補正予算が依然として大規模になる可能性を排除することは難しい。
インタビューに登場した「4.1兆円」と「3兆円」の根拠は不明確
また、インタビューに登場した具体的な数字にも不明確な面があった。高市総理は、「私の就任後の25年度補正予算は一般歳出の増加は4.1兆円だったが、前年度より税収が7.3兆円増加したことで補正後の国債発行額は前年度以下の40兆円程度に抑えている」と説明した。また、「23~25年度の補正予算は毎年おおむね3兆円程度を計上しており、これを抜本的に見直せる」とも述べた。
しかし、一般的に補正予算の一般歳出、あるいは補正予算規模と言えば、当初予算に上乗せされた一般会計歳出額を指すことが多い。この基準でみると、一般会計補正予算の追加歳出額は23年度が約13.2兆円、24年度が約13.9兆円、25年度が約18.3兆円である。
このため、インタビューに登場する25年度補正の「4.1兆円」や、23~25年度補正の「毎年おおむね3兆円程度」という数字を、公表されている補正予算統計から直接再現することはできなかった。
一つの可能性として、「4.1兆円」は補正予算額そのものではなく補正予算の増加額を指しているのかもしれない。25年度補正予算は約18.3兆円、24年度補正予算は約13.9兆円であり、その差は約4.4兆円となる。これは高市総理が言及した4.1兆円に比較的近い数字である。また、22年度から25年度までの補正予算額の増加ペースをみると、前年差の平均は約3兆円となる。「23~25年度の補正予算は毎年おおむね3兆円程度を計上しており」という発言を素直に読む限り、前年差ではなく毎年度の計上額を指しているようにも読める。この解釈が正しいのであれば、高市総理は毎年数兆円規模で経済対策が積み上がっていくことを前提に議論している可能性があり、結果的に市場が想定する以上の歳出拡大につながる可能性もある。
「4.1兆円」や「おおむね3兆円」という数字が補正予算全体ではなく、補正予算の一部項目のみを指しているのであれば、違った議論になる。その場合、当初予算へ移されるのは補正予算の一部分に過ぎず、補正予算そのものは今後も相応の規模で計上され続ける可能性がある。そうなれば、市場で広がりつつある「補正予算依存の縮小」という見方には修正が必要になるだろう。
いずれにせよ、少なくとも筆者には現時点でこれらの数字の算出根拠を確認することができなかった。高市政権が今後公表する予算編成方針や財務省資料などを通じて、追加的な説明が示されるかどうかが注目される。むしろ今回のインタビューは、財政規律への配慮を随所に示しながらも、予算規模や補正予算の位置付けについてはなお不透明な部分を残している。結果として、市場が想定する以上の歳出拡大につながる可能性を排除できない。今後の予算編成を注意深く見極める必要があるだろう。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)