日米通貨当局は7月末の外国為替市場で円下支えのため数十年ぶりとなる大規模な協調介入に踏み切った。その直後、ベッセント米財務長官は連邦準備制度に対し、日本の円防衛を支援するため、あまり知られていない制度の拡充を促し、金融市場を驚かせた。

その制度は外国・国際通貨当局(FIMA)向けレポファシリティーで、日本は保有する米国債を担保にドルを借り入れ、その資金を円買いに充てることが可能になる。日本は外国勢として米国債の最大の保有国だ。

ベッセント氏は、FIMAプログラムの仕組みを活用すれば、日本は31兆ドル(約4890兆円)規模の米国債市場に新たな売り圧力をかけることなくドルを調達できるとみている。外国勢による大規模な米国債売却は、市場の変動性を一段と高めるほか、米国債相場を押し下げ、インフレ抑制に向けた取り組みを複雑にする可能性がある。

FIMAレポファシリティーの概要と、ベッセント氏の発言に対する金融市場の反応は以下の通り。

Photographer: Andrew Harnik/Getty Images

FIMAレポファシリティーとは何か?

FIMAレポファシリティーは常設プログラムで、外国の中央銀行や通貨当局が、ニューヨーク連銀に保有する米国債を担保にドルを借り入れることができる仕組みだ。

借り手は担保を差し入れてドルを受け取ることができるが、各借り手の借入額は1日最大600億ドルに制限されている。この金額は、日本が7月30日に為替介入で単日に支出したと推計される額をわずかに上回る程度にとどまる。融資の満期時には取引が解消され、借り手は利息を付けて資金を返済する。

借り手は翌日物(オーバーナイト)でドルを調達できる。借入金は24時間以内に返済しなければならないことを意味する。適用金利は連邦準備制度の主要政策金利、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジの上限に設定されている。現在の誘導目標レンジは3.50-3.75%だ。

現時点では、FIMAレポファシリティーを利用してドルを調達するコストは、銀行などの金融機関が資金を貸し借りする民間のレポ市場で借り入れるよりも高い。これは制度設計によるもので、同制度を日常的な資金調達手段ではなく、市場がストレスに見舞われた際の安全網として機能させることを意図している。

連邦準備制度は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う市場混乱で、外国の中銀がドルを確保するために米国債を売却していた2020年3月にFIMAレポファシリティーを創設し、21年7月に恒久化した。

利用頻度は?

利用はまれだ。直近では6月に約100万ドルが利用され、残高は通常、数百万ドル台にとどまっている。最も大規模な利用は23年3月で、世界的な銀行不安が広がる中、通貨当局が約600億ドルを借り入れた。

円下支えにどのように活用されるか?

日本が円を支えるために為替介入を実施する際には、自国通貨を買うためのドルが必要になる。そのドルを調達する方法の一つは保有米国債の売却だが、大規模に実施すれば米国債市場に下押し圧力をかける可能性がある。FIMAレポファシリティーはその代替手段となる。日本は保有する米国債を担保にドルを借り入れることができるため、国債を直ちに売却する必要がなくなり、介入に伴う市場への影響を和らげる効果が期待される。

ベッセント氏は8月2日のSNS投稿で、FIMAプログラムは日本の取り組みを支える重要な仕組みだと説明し、「今後数カ月のうちに規模を拡大することを期待している」とコメントした。片山さつき財務相も、日本が円買い介入を実施したことを認めるとともに、今後このファシリティーを利用する方針を示した。日米のいずれの当局も、今回の為替介入で日本がFIMAプログラムを利用したかどうかは明らかにしていない。一方、連邦準備制度理事会(FRB)は毎週木曜日に公表する週次報告で同制度の利用状況を開示している。

制度活用を巡る議論の内容は?

FIMAプログラムは、市場が混乱した局面での利用を想定して設計されたもので、為替介入のための日常的な資金調達手段ではない。現在の同制度の利用枠組みには制約があり、継続的な為替介入への有用性には限界がある。

プログラムの設計や利用上の制限を踏まえると、日本が為替介入を繰り返し行う必要があったり、大規模な介入を迫られたりした場合、どこまで支援を提供できるのか懸念があると、複数のアナリストは指摘している。

エバコアISIのストラテジスト、マルコ・カシラギ氏とリュー・ガン氏は調査リポートで、ベッセント氏がプログラムの借り入れ上限の引き上げを要請したことは、「市場が米国と日本の円高支援へのコミットメントを試す動きにつながりかねない」とし、逆効果となるリスクがあると指摘した。

バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジスト、マーク・カバナ氏とケイティ・クレイグ氏は8月4日の顧客向けリポートで、円相場を支えるためにFIMAレポファシリティーを利用すれば、海外投資家による大規模な売りに敏感になっている市場で、日本が米国債を売却せずに済む手段を得られるため、事実上ベッセント氏に配慮した対応となるとの見方を示した。

ベッセント氏の要請は米財務省とFRBの境界線を曖昧にするものか?

FRBウオッチャーの一部は、ベッセント氏が極めて微妙な領域に踏み込んでいるとみている。米財務長官が連邦準備制度の政策手段、とりわけ政策金利を決定する連邦公開市場委員会(FOMC)の管轄下にある制度について、変更を公に促すのは異例だと指摘している。

ベッセント氏は財務長官として大きな発信力を持つ一方、連邦準備制度に対する権限はない。FIMAプログラムに何らかの変更を加える場合でも、少なくともFOMCの外国通貨小委員会の承認が必要となる。

一方で、金融市場の安定を確保するために連邦準備制度と米財務省が連携すること自体は、特に市場の変動が大きい局面では珍しくないとの見方もある。市場関係者の間では、米国債市場の変動を踏まえれば、連邦準備制度が円買い介入に伴う市場への影響を和らげるために協力する十分な理由があるとの声もある。

日本にとっての他の選択肢は?

RBCキャピタル・マーケッツの金利戦略責任者、ブレイク・グウィン氏によると、日本がFIMAレポファシリティーに頼らずに為替介入の資金を調達する方法は幾つかある。米国債の売却以外に、保有するドル資産から生じる利息を再投資せずに積み上げる方法や、償還を迎えた米国債の再投資を見送り保有残高を自然に減らす方法がある。

こうして生じた余剰資金は、外国機関が資金を翌日物で預け、市場金利に連動した利回り(現在は3.5%)を得られる連邦準備制度のリバースレポファシリティー、いわゆる「外国RRPプール」に預け入れておくか、為替介入まで預金として保有することもできる。

BofAによれば、日本の財務省は既に約1620億ドルの預金を保有していると推計され、その多くは外国RRPプールで運用されているとみられている。このため、日本はFIMAレポファシリティーなどを利用して新たにドルを調達しなくても為替介入を実施できる可能性がある。ただ、過去の為替介入では、そのような対応は取ってこなかった。

償還を迎えた米財務省短期証券(TB)の再投資を見送り、保有残高を減らすことも、為替介入資金を確保する現実的な手段となる。日本は火曜日と木曜日の定期的なサイクルで償還を迎えるTBを大量に保有しており、財務省は長期債を借り入れたり売却したりすることなく、継続的に翌日物の流動性を確保できる。これが、日本が最近の為替介入資金を賄ってきた方法の一つである公算が大きいと、市場関係者はみている。

原題:Why Bessent Wants Bigger Fed Backstop to Help the Yen: Explainer(抜粋)

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