株式市場では材料不足の中で自律反発が続くが、勢いはない

7月31日の米国株式市場では、自律反発が継続した。

前日と比べれば、株価指数のプラス幅は大きくなかったが、2営業日連続で3指数揃って上昇した。前日に続き、この日もマクロ経済のデータでは株価を押し上げるものはなかった。

例えば、「イラン革命防衛隊がホルムズ海峡でタンカー2隻を攻撃して通航を阻止したと伝わった」(共同通信)ことで、原油価格は上昇した。米長期金利の上昇も、株価にとってはネガティブな材料となった。それでも株価が上昇した背景としては、決算動向が堅調な結果であることを確認した上での、自律反発と言える動きが生じていると考えられる。

7月は債券相場、株式相場ともに弱めの推移となったことから、リスク回避的にキャッシュ化された投資資金の一部が株式市場に回帰していると考えられる。もっとも、AI・半導体関連株への高値警戒感は強いことも考慮すると、株価の上値は重いだろう。

なお、8月1日にはトランプ米大統領が計画していたイランへの攻撃を中止すると述べた。

協議に進展があったためとされ、本日(3日)は原油価格には下落圧力がかかることが予想される。景気敏感株や消費関連株にはポジティブな影響が予想されるが、AI・半導体関連株への資金集中が解消される展開は続くと予想され、株式市場全体ではまちまちな展開となるだろう。

FRBのビハインドザカーブの懸念が長期金利を押し上げる展開

7月31日の米国債券市場では、原油価格が上昇したことを受け、インフレ懸念が台頭し、幅広い年限の金利が上昇した。

長期金利は前日比+6.1bp、2年金利は同+4.5bpだった。10年実質金利が同+3.7bp、10年インフレ予想(BEI)が同+2.4bpとなった。7月のFOMCでは、ウォーシュ議長が積極的にインフレを抑制していく姿勢は示されず、市場機能を重視する姿勢が示された。そのため、原油高のようなインフレ懸念が強まるような動きが生じると、FRBがビハインドザカーブに陥る可能性が意識されやすい。原油高が進む場合、利上げ観測が高まることで実質金利が上昇するだけでなく、インフレ予想も高まりやすい展開となるだろう。

FRBのタカ派化懸念が弱まっているという意味では、短中期ゾーンの金利には低下圧力がかかることが予想される。一方、中長期的にはインフレ率が上振れるリスクが高まるため、BEIを中心に長期・超長期金利は上昇しやすい状況になった。

トランプ政権は中間選挙に向けて原油価格やインフレ率、長期金利が高まらないよう努める公算であることを前提とすれば、市場は安定的な推移になるだろう。しかし、イラン側の予想外の動きなどによって原油価格が上昇する場合、長期金利の上昇リスクは高い。

協調介入の狙いが「トラスショック」回避の場合、日銀は利上げに慎重か

7月31日、日米両政府は協調して円買いの為替市場介入を実施していたと報じられている。

7月30日には日本政府が6~7兆円の円買い介入を実施し、米財務省がレートチェックを実施したと報じられていたが、この日は実際に日米両政府が介入に動いた模様である。英紙FTは「事情に詳しい3人によると、NY連銀は財務省に代わり、ユーロを売却して円を購入するという異例の措置を実施した」(筆者訳)と報じた。米政府による円買い介入は多くの市場参加者にとってサプライズであると考えられ、比較的長期にわたって円安圧力を弱めることになるだろう。

協調介入の背景や今後については、日米両政府による共同声明を確認する必要がある。

NHKは「5月中旬に東京で行われた日米財務相会談で協調介入についての調整が本格化し、その後、入念に準備を進めてきたということで、政府は3日、協調介入の実施をふまえた日米共同の声明を発表する」「日本とアメリカの通貨当局は円安是正に向けた協調介入について時間をかけて入念に準備を進めてきましたが、協調介入を実施するタイミングについても慎重に見極めていたとみられます」と報じた。

両政府の主な考えは以下だろう。
日銀決定会合の結果が公表された7月31日の前日である7月30日に最初の為替介入が実施されたことや、米財務省がドル売り・円買いではなく、ユーロ売り・円買いを選択したようであることなどから、両政府の思惑が見えてくる。

《日本》
 日米が入念に準備を進めた上で、日銀決定会合の前のタイミングを選択したということは、一時的な円安進行も望ましくないと判断された公算
 日銀がビハインドザカーブに陥っていると評価されることを回避することに加えて、日本の市場が「トラスショック」的な動きになることを回避する目的があったのだろう
 賛否両論ある中で高市首相がリスクをとって食料品の消費税率の引き下げを進める方向であり、「トラスショック」によって批判的な意見が強くなることは避けたかったと考えられる
 円安を防ぐという意味では日銀の利上げも効果的だとみられるが、株式市場の地合いも悪化する中で連続利上げはリスクが高いという判断になったのだろう
 米政府も日本で「トラスショック」が発生することを懸念している模様であり、円安・金利上昇・株安のすべてを回避することが当面の課題となる
 米政府も株安を起点に「トラスショック」が生じるような展開は望んでいないとみられ、今後も日銀の利上げは慎重に判断される公算
 結果的に、円安に対しては為替介入によって対応していく可能性が高い

《米国》
 中間選挙を前に、長期金利が高止まりしていることが課題となっている
 円金利が不安定である上に、高市政権と市場のコミュニケーションが不安定化しており、「トラスショック」に至った場合に米国市場への波及が懸念される
 米政府と良い関係を築いている高市政権の安定も重要である
 もっとも、米国内のインフレ懸念は残存しており、ドル安によって国内のインフレ懸念が強まることは避けたい
 ユーロ売り・円買い介入であれば、ドル安圧力は軽減されるため、受け入れやすい
 今後も日本政府に協力できるかどうかは、国内のインフレ懸念(すなわち、原油高懸念)次第の面があるが、イラン情勢の先行きが読みにくかった4月下旬(日本が単独で円買い介入を実施)と比べれば、協力しやすい状況である


市場では、米国が円買い介入に動いたことで、次は日銀の利上げを要求するという見方が強まるだろう。6月決定会合で利上げが実施される前、5月に植田総裁とベッセント財務長官は会談を行っていた。

もっとも、足元の日米両政府の最大の狙いは、「トラスショック」の回避だろう。

インフレ懸念による金利上昇といった教科書的な動きよりも、高市政権が市場とのコミュニケーションに失敗し、ショック的な動きが生じることを回避したいとみられる。

ベッセント財務長官は2月にも「高市首相はこのままではトラスになるか、メイになってしまうのではないか」(日経新聞)と懸念していたと報じられている。

「トラスショック」を回避することが目的であるとすれば、株安につながり得る日銀の利上げもできれば避けたいところだろう。株式市場が不安定な状況が続く場合、日銀は利上げに慎重化すると、筆者は予想している。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)