日米の通貨当局が円安是正に向けて為替市場への協調介入に踏み切ったことを受け、市場では次回9月の金融政策決定会合も視野に日本銀行による追加利上げ予想の前倒しが進んでいる。

日銀は7月31日の会合で政策金利を1%程度に据え置くことを決めたが、同時に公表した新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)や植田和男総裁の会見では円安進行に伴う物価上振れリスクに警戒感を一段と強めた。先行きの金融政策運営に関する説明に、これまでの中東情勢に加えて「為替相場の変動の影響」も明記した。

三村淳財務官は31日夜、日銀会合後に記者団に対し、展望リポートを「十分拝見した」とした上で、「今後とも金融政策と緊密に連動しながら対応したい」と語った。日米財務相は3日、日米が31日に協調介入を実施したことを明らかにし、さらなる協調介入も躊躇(ちゅうちょ)しないとした異例の談話を公表した。

ベッセント米財務長官は加えて、「米国は、円の著しい過小評価を是正するため、日本が断行した市場対応および金融政策を強く支持する」と、述べた。円安の処方箋は利上げとするベッセント氏は、植田総裁の政策運営に信頼感を示すとともに、日銀に裁量の余地を与えるよう日本政府に呼び掛けてきた。

Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

日米協調介入と日銀の発信を受けて足元の金利スワップ市場では、次回9月会合での利上げ予想が40%超、その次の10月会合までは90%超と前倒しが進んでいる。日銀会合と為替介入が行われる前の7月29日の段階では、それぞれ30%弱、80%弱だった。

ふくおかフィナンシャルグループの佐々木融チーフ・ストラテジストは電話取材で、ファンダメンタルズが変わらなければ協調介入で円安トレンドを変えることはできないとし、日銀の9月利上げが必須との見方を示した。米国に協調してもらった以上、日銀の早期利上げを望む米国の要求をのむ必要があるとしている。

日銀が慎重に利上げを進めてきたことで、市場では半年に1回程度との見方が定着していた。しかし、円安やAI関連需要を含めて物価上振れリスクへの対応が優先課題になりつつある中、日銀は6月会合に続き、7月展望リポートにも一時的要因を除いた基調的な物価上昇率が、目標の2%から「上振れていくリスク」を盛り込んだ。

植田総裁は7月会合後の会見で、基調物価が2%の物価安定目標に近づいていることを踏まえ、「これまで以上に物価の上振れリスクを意識する必要がある」と指摘。金融環境が過度に緩和的と判断すれば、「利上げのペースを速めるということも、十分あり得る」と踏み込んだ。

為替市場介入に踏み切る一方、高市早苗政権が引き続き利上げに慎重な姿勢を示せば、 再び円安圧力が強まる可能性は否定できない。政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に盛り込んだ金融政策への言及を巡り、日銀をけん制しているとの思惑が市場で高まり、対応に追われたばかりだ。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、本格的な円安修正には、消費減税の安定財源を示して財政悪化懸念を緩和することや、「政府が日銀の利上げをけん制しているとの観測を払拭すること」の重要性を指摘。これらを米政権も望んでおり、「協調介入実施の条件となっていた可能性もある」とみている。

一方、市場では、為替介入の効果で円安是正が進めば、日銀が早期の追加利上げに動く必要性は低下するとの見方もある。

S&Pグローバルマーケットインテリジェンスの田口はるみ主席エコノミストは、円安の行き過ぎで日本の金利が上昇する中、米債券への波及懸念から米国は協調介入に動いたと分析。ただ、介入効果が高いほど「円安圧力を理由に日銀が利上げをする緊急性は下がる」とし、効果が持続するなら9月利上げは見送ると予想した。

日銀は10日に7月会合の主な意見を公表する。物価の上振れリスクと円安の影響、今後の金融政策について政策委員からどのような見解が出たのか注目される。27日には氷見野良三副総裁がさいたま市で講演と記者会見を行う。

大和証券グループ本社の吉田光太郎最高財務責任者(CFO)は3日の決算発表会見で、異例の日米の協調介入は「円安への投機的な動きに歯止めをかける当局の強いシグナル」と述べた。一方で「構造的な円安圧力が解消されるわけでもない」とし、日銀が重視するデータ次第では利上げのペースが速まるとの認識を示した。

また、SMBC日興証券の後藤歩常務は同日、「日米の協調介入によって、投機的な円安を抑止する効果があった」と指摘。年末には1ドル=153円程度まで円高が進む見通しを示した。日銀の金融政策の動向については、従来よりも速いペースで正常化が進み、「10月会合で利上げする可能性を予想している」と語った。

(第13、14段落に証券会社幹部の発言を追加します。更新前の記事は写真のキャプションにある日銀決定会合の日付を訂正済み)

--取材協力:野原良明、堀内亮.

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