ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントやウェリントン・マネジメントなどの債券投資家は、ウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、経済情勢の変化に当局者がどのように対応するのかについて市場に明確な見通しを示しておらず、米国債相場には一段安のリスクが高まっているとみている。

ウォーシュ議長が先週の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で金利据え置きを決めた際、インフレ圧力をどのように抑制する考えなのかを示さなかったため、米国債市場は議長のインフレ対応への信認が揺らいでいることを示している。情報発信はさらに減る可能性もある。ニューヨーク・タイムズは7月31日、ウォーシュ議長がFOMC定例政策会合の開催頻度を減らすことを検討していると報じた。

今週発表される雇用統計などの経済指標にどう対応するのかについて、FRBがガイダンスを示していないため、年限が長めの米国債に対してリスクプレミアムが高まっている。長期債利回りの上昇継続を見込むオプション取引が積み上がっている。

その結果、米政府や住宅ローン利用者、企業の借り入れコストは上昇している。インフレ懸念の影響を最も受けやすい30年債利回りは19年ぶりの高水準に達した。一方、ドイツ国債利回りもインフレ懸念を背景に15年ぶりの高水準を付け、日本でも長期金利が上昇している。

ブランディワインのポートフォリオマネジャー、トレーシー・チェン氏は「イールドカーブの長期ゾーンに参入するのは危険だ」と指摘。「今後2カ月もインフレ率が高止まりし、FOMCが9月に利上げしなければ、債券自警団は激しく反応するだろう」と述べた。同氏はベンチマークに比べて米国債の保有比率を低めにしている。

短期金融市場は現在、FOMCが9月の次回会合で利上げを実施する確率を約70%と織り込んでいる。中間選挙を翌月に控える10月会合では、利上げが完全に織り込まれている。

中東情勢の緊迫を受けて原油価格が上昇し、インフレ懸念が強まる中、金融当局の政策運営は一段と難しさを増している。一方、イラン戦争の長期化に伴い、市場では高いインフレ期待が定着することへの懸念が強まっている。

先週の金利据え置き決定に反対した当局者3人は7月31日、インフレへの対応が遅れれば、将来的に一段と積極的な金融引き締めが必要になる恐れがあると警告した。

ウォーシュ議長は物価安定の回復を約束しているものの、複数の重要な論点について曖昧な発言を続けていることから、その本気度に疑問を抱く向きもある。議長は債券利回りの上昇が金融環境の引き締めという点で既にFRBの役割の一部を果たしていると主張したほか、FRBが重視するインフレ指標が引き続き適切な目標なのかについて疑問を呈した。インフレ抑制の手段は政策金利だけではないとの考えも示した。

ハイライン・アセット・マネジメントで債券部門マネジングディレクターを務め、フェドウオッチ・アドバイザーズを創業したベン・エモンズ氏は「市場や国民に対するFRBの情報発信の在り方を見直すというウォーシュ議長の姿勢を踏まえれば、今回の話は全く予想外というわけではない」と述べた。一方で、「かなり衝撃的な内容で、相場変動を高めることになる」と指摘した。

さらに、「会合の回数が減れば、市場がより大きな役割を担わなければならなくなる」と語った。

イールドカーブのシグナル

ウォーシュ議長は先週、政策運営の方向性について市場に詳細なシグナルを与える考えはなく、市場の変動をいとわない姿勢を明確にした。

記者会見で「市場を驚かせることが目的ではない」と述べた。一方、「同時に、今回の会合では、目の前にあるあらゆる選択肢に縛られているとは考えていなかった」と語った。

米国債イールドカーブの動きは、政策運営に対する信認がやや低下していることを映し出している。

ウォーシュ議長の就任後初となった6月の会合後、インフレ率を長期目標である2%へ引き下げることが最優先課題だとの明確なメッセージを当局から受け取ったことで、短期債と長期債の利回り格差は急速に縮小した。イールドカーブの平たん化は、時間をかけてインフレ率が低下すると市場が信じていることを示すシグナルの一つだ。

しかし、先週はその流れが一変した。投資家は長期債を積極的に売却し、イールドカーブは大きくスティープ化した。当局者から政策運営の枠組みが十分に示されていないことへの不満を背景に、インフレ懸念が強まっていることを示すシグナルとなった。

先週のオプション市場では、10年国債利回りが8月21日までに4.9%前後へ上昇することを見込む取引がみられた。実現すれば2023年以来の高水準となる。現在の利回りは4.7%をやや上回る水準にある。30年債利回りが5.4%を上回ることを見込む取引もあり、この水準は2007年半ばに付けたピーク近辺に当たる。30年債利回りは先週、一時5.28%まで上昇した。

ウィズダムツリーの投資戦略責任者、ケビン・フラナガン氏は「米国債相場の値動きは大きくなっており、10年債利回りは再び5%に向かいつつある」と指摘した。その上で、「経済指標が引き締めを支持する内容で推移し続けるなら、口先だけでは済まされない。実際に行動を起こさなければならなくなる」と述べた。

財政への懸念

米国の財政見通しに対する懸念も、米国債利回りを押し上げる要因となっている。市場では今週発表される8-10月期の国債入札計画にも注目が集まっている。発行額は据え置かれるとの見方が大勢だが、来年の増額に向けた布石を当局が打ち出す可能性があることも、長期金利の上昇につながっていると、ストラテジストはみている。

ウェリントン・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ブリジ・クラナ氏は、長期債利回りは「魅力的な水準」にあるとの見方を示した。

一方、「市場がFRBの信認に疑問を抱き始めたことが、利回り上昇につながっている」と懸念しており、5年物のインフレ連動債を選好している。

今週は、7月の雇用統計など一連の経済指標が発表される。FRBから政策運営に関するガイダンスが示されない中、市場が金融政策の見通しをどこまで修正するのかが試されることになる。

アライアンス・バーンスタインの債券部門責任者、スコット・ディマジオ氏は「FRBは債券市場のコントロールを失うリスクを抱えている」と指摘。利回り水準そのものは魅力的だが、ウォーシュ議長がインフレ抑制に向けた政策の枠組みを明確に示さない限り、「債券市場は方向感を見いだすのに苦労するだろう」と述べた。

原題:Bond Traders Flying Blind on Fed See Risk Yields Spiral Higher(抜粋)

--取材協力:Edward Bolingbroke、Enda Curran、Greg Ritchie.

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