・日本の訪日外客数は減少も、単価上昇で旅行消費額は過去最高である。
・減少した中国客等は少数高単価化し、「量から質」への転換が鮮明。
・26年通年の訪日客は前年割れ予想も、客数減を単価で補えるかが焦点。
はじめに~客数減と消費額最高の明暗、単価上昇と多様化の下支え
中国政府による日本への渡航自粛の呼びかけの影響が四半期を通じて表れる初めての期となった2026年1-3月期について、中国からの訪日客数が前年同期比▲54.6%と半減する一方、欧州・新興国からの訪日客の増加が下支えし、訪日外客数・消費額はいずれも前年同期比で微増を確保している。あわせて、中国からの訪日客には滞在の長期化や買い物比率の低下といった質的な変化がみられることを指摘し、中国減が2026年通年の訪日客数・消費額に与える影響について試算を更新した。
2026年4-6月期は、中国減の影響が2四半期目に入り、客数と消費額の明暗が分かれた期となった。訪日外客数は4月以降3カ月連続で前年割れとなり、4-6月期では1,040万人(前年同期比▲5.3%)と減少に転じた。一方、消費額は2兆5,096億円(1次速報)と前年同期比+0.2%を保ち、第2四半期として過去最高を更新した。1人当たり旅行支出が24.4万円(同+3.3%)へと上昇し、客数の減少を単価が補った形である。
もっとも、今期は中国減に加えて、イラン情勢に伴う航空便の減便や燃油サーチャージの上昇という新たな不確実性も生じている。こうしたなかでも、台湾・韓国からの訪日客は2桁の伸びを続け、米国は消費額で最大市場となった。前年同期に2割を占めて首位だった中国が半減するなかで消費額の水準が保たれた背景には、訪日市場の多様化による下支えがあると考えられる。
本稿では、観光庁「インバウンド消費動向調査」の最新値(2026年4-6月期)をもとに、インバウンド消費の実態を分析する。あわせて、中国からの訪日客の動向を踏まえ、2026年通年の訪日客数・消費額の見通しについて、前稿の試算を検証する。
訪日外客数~初の前年割れも1千万人台は維持、6割減の中国の穴を埋めきれず
2026年4-6月期の訪日外客数は1,040万864人(推計値)と、前年同期(1,098万700人)比▲5.3%となり、コロナ禍後にインバウンド需要の回復が始まって以降、初めての四半期ベースでの前年割れとなった(図表1)。冒頭で述べた通り、4月以降は月別でみても3カ月連続で前年を下回っており、これまで続いてきた拡大基調は減少へと転じている。

国籍・地域別にみると、最多は韓国(261万6,979人、全体の25.2%)であり、次いで台湾(193万677人、同18.6%)、米国(101万8,252人、同9.8%)、中国(98万4,476人、同9.5%)、香港(64万8,191人、同6.2%)が続いた。
中国の構成比は前年同期(21.4%)と比べて半分以下に低下しており、前年同期には韓国と首位を争っていたが、今期は台湾と米国を下回る4位に後退した。
そのほかの主要国・地域をみても、今期は訪日客数が減少している国が目立つ。前期に前年割れとなっていた主要国は中国のみであったが、今期は、イタリア(前年同期比▲12.2%)が1割超の減少となったほか、ドイツ(同▲3.4%)、スペイン(同▲2.8%)、英国(同▲2.5%)と欧州諸国で減少している。また、タイ(同▲2.2%)、豪州(同▲1.9%)、フィリピン(同▲1.5%)でも前年をやや下回った。
一方で、マレーシア(同+24.1%)やインド(同+23.3%)は2割超、ロシア(同+16.5%)、台湾(同+16.2%)、韓国(同+14.9%)は1割台半ばの増加となっている。

こうした国・地域による増減の分かれ方のうち、減少側の背景には、大きく2つの要因があるとみられる。
第一に、休暇時期のずれによるカレンダー要因である。イースターが前年の4月20日から今年は4月5日へと早まり、休暇需要が3月下旬から4月上旬に分散した結果、前年は4月に休暇需要が集中していた欧州や豪州では、4月の前年比が大きく押し下げられたと考えられる。
実際、イタリア・スペイン・英国・豪州では5月以降、増加に転じており、需要の基調そのものが崩れたわけではないとみられる。
第二に、イラン情勢の緊迫化に伴う航空便への影響である。2026年2月末以降、中東系航空会社の主要路線が相次いで欠航し、中東ハブ経由で日本と欧州を結ぶルートが制限された。湾岸諸国からの訪日客は3月以降、大幅な減少が続いているほか、燃油サーチャージを含む航空運賃の上昇が、欧州など遠距離市場の訪日需要の重石となった可能性がある。カレンダー要因を勘案してもなお、欧州からの訪日客の伸びが年初と比べて鈍化していることは、その影響を示唆するものといえる。もっとも、足元では運休便の再開や、延期されていた欧州からの団体予約が動き出しているとの報道もあり5、影響が一時的なものにとどまるかは、今後の情勢次第である。

前期は欧州や新興国からの訪日客の高い伸びが中国減を補っていたが、今期の増加を支えたのは、台湾・韓国といった東アジアの近隣市場に加え、マレーシアやインドなどの成長市場である。四半期ごとに伸びる市場の顔ぶれが入れ替わりながらも、全体として訪日需要の裾野が保たれており、特定の国・地域に依存しない市場構造へ近づきつつある様子がうかがえる。
とはいえ、中国という最大市場の穴を埋めきれず、訪日客数全体では減少に転じたことも事実である。中国の渡航自粛の呼びかけが長期化する場合や、イラン情勢の影響が遠距離市場に広がる場合には、減少幅が拡大する可能性もある。多様化は減少を和らげる緩衝材にはなっても、成長を保証するものではない。訪日市場は、拡大の勢いに支えられてきた局面から、構造の強さが試される局面へと移ったといえよう。
なお、2026年通年の訪日客数について、前稿の試算を更新した。前稿では、中国以外からの訪日客数の伸び率を2025年並み、中国からの訪日客数を2025年の半分程度と仮定していたが、今回は上期の実績を踏まえ、いずれも7月以降も上期と同程度の伸び率・減少率で推移すると置き直した。この場合、2026年の訪日客数全体は約4,200万人と、2025年(4,268万人)を約70万人下回る水準である。上期実績がすでに前年を下回っており、中国からの訪日客が回復に向かう兆しもみられない現状を踏まえると、これまで拡大基調が続いてきた訪日客数は、2026年に減少へ転じる可能性が高まっている。
一方、消費額について同様に試算すると、2026年全体では2025年を約1千億円上回る水準となる。客数の減少を1人当たり旅行支出の上昇が補う構図が、通年でも続くとみられるためである。ただし、中国からの訪日客の減少が一段と深まる場合や、イラン情勢による航空運賃の上昇が長引く場合には、試算値は下振れし、前年割れとなる可能性がある。

訪日外国人旅行消費額~伸び率はほぼ横ばいまで鈍化も、単価上昇が支えて2.5兆円、2026年4-6月期の訪日外国人旅行消費額は2兆5,096億円(一次速報)となり、前年同期(2兆5,043億円)と比べて+0.2%となった。消費額は2023年7-9月期以降、コロナ禍前を上回る水準で増加傾向が続いており、四半期ベースでは7期連続で2兆円超を維持している。2兆円規模の水準そのものは引き続き定着しているといえる。

もっとも、その伸び率は四半期を追うごとに鈍化している。感染症法上の位置づけ変更によって水際対策が大きく緩和された2023年5月以降、前年同期との連続的な比較が可能となった2024年7-9月期以降の消費額の伸び率を確認すると、8四半期連続で減速している。
この鈍化の背景には、コロナ禍からの反動的な回復局面が一巡したことに加え、前章でみた中国からの訪日客の減少が、消費額にも波及していることがある。2025年に消費額全体の約2割を占めていた中国の急減は、消費額全体の伸びを大きく下押ししており、伸び率が+0.2%とほぼ横ばいまで縮小した今期は、その影響が最も色濃く表れた四半期といえよう。

一方、訪日外客数が初の前年割れとなる(▲5.3%)なかで、消費額はかろうじて増加を保っており(+0.2%)、訪日客1人当たりの消費が全体を支えた形である。実際、2026年4-6月期の一般客1人当たり旅行支出は24万4,457円と前年同期比+3.3%の増加となった。他方で平均泊数は8.7泊と前年同期から0.7泊短縮しており、1人1泊当たりの旅行支出(2万8,222円)は1割強増加している。滞在を短くしながらも1日当たりの支出水準は切り上がっており、限られた滞在日数の中により多くの消費が凝縮される方向へと変化しつつあることがうかがえる。
もっとも、この上昇には物価の影響も含まれる。消費者物価指数をみると、国内の「宿泊料」は4月・5月に前年同月比で5%程度上昇しており(4月+4.6%、5月+4.8%)、日額単価の伸びの一部は、同じ滞在に対する支払額の増加を映したものとみられる。加えて、平均泊数の長い欧州からの訪日客が減少した構成要因もあり、旅行者の行動変化のみによるものではない点には留意が必要である。
国籍・地域別にみると、最多は米国(3,848億円、全体の15.3%)で、次いで台湾(3,639億円、同14.5%)、中国(2,592億円、同10.3%)、韓国(2,589億円、同10.3%)、香港(1,452億円、同5.8%)が続いた。
訪日客数と同様、中国の構成比は前年同期(20.2%)と比べてほぼ半減しており、前年同期の首位から今期は3位に後退した。代わって首位に立った米国は、訪日客数では全体の1割弱にとどまるものの、1人当たり旅行支出の高さを背景に、消費額では最大の市場となっている。
中国の消費額は前年同期比▲48.8%とほぼ半減した一方、主要国では、ベトナム(同▲22.1%)、イタリア(同▲19.6%)、ドイツ(同▲1.5%)を除く多くの国・地域で前年同期を上回っており、ロシア(同+62.3%)、インド(同+43.8%)、インドネシア(同+40.3%)、マレーシア(同+39.8%)など新興国の高い伸びが目立つ。また、台湾(同+27.9%)は消費額で3,639億円と過去の中国に次ぐ規模まで拡大しており、韓国(同+12.2%)とあわせ、東アジアの近隣市場が消費額の面でも下支え役となっている。中国急減の影響が幅広い国・地域からの消費増によって一定程度相殺される構図が、消費額の側面でも確認できる。
ここで、中国からの訪日客の消費行動にも変化がみられる点に触れておきたい。中国の1人当たり旅行支出は26万6,753円と前年同期比+9.4%の増加となった上に、平均泊数は11.2泊と前年同期から3.3泊延びている。ただし、観光・レジャー目的に限れば平均泊数は6.9泊と前年同期から0.8泊の延びにとどまることから、全体の泊数の伸びは、観光目的の滞在が長期化したというよりも、訪日中国人の構成変化、すなわち長期滞在を伴う親族訪問や業務・留学等を目的とした訪日客の比率が相対的に高まった影響が大きいとみられる。つまり、渡航自粛の呼びかけが続くなかでも訪日を選ぶ層は、より明確な目的を持つ層に絞り込まれているとみられる。
一方、観光・レジャー目的の1人当たり旅行支出は25万6,384円(同+8.3%)、1人1泊当たりでは3万7,138円と全国籍・地域の平均(3万4,058円)を上回っており、なかでも買物代は1泊当たり1万5,413円と平均(9,135円)の1.7倍に達する。訪日客数が6割減となるなかで残った観光客は、少数ながら高単価、とりわけ買い物への支出が厚い層であることがうかがえる。
こうした中国の動向を踏まえると、2026年通年の消費額の展望においても、客数の減少がそのまま消費額の減少に直結するわけではないことが分かる。前章で示した通り、通年の消費額は2025年をわずかに上回る水準となる試算であり、その背景には、中国以外からの消費増に加え、中国からの訪日客自体の単価上昇という、本章でみた構造変化がある。ただし、この試算は残った訪日客の高い消費単価が下期も維持されることを前提としており、渡航自粛の呼びかけの長期化により訪日客の構成がさらに変化する場合には、単価・消費額とも変動しうる点には留意が必要である。
訪日外国人旅行消費額の内訳~「買い物」から「体験」へのシフトが続く
訪日外国人の消費内訳は、中長期でみると「買い物」から「体験」へとシフトしている。中国人の「爆買い」が流行語となった2015年頃、「買物代」は全体の4割を超えていた。しかしその後、中国政府による関税引き上げや、サービス消費志向の強い欧米からの訪日客の増加を背景に、宿泊・飲食・娯楽等のサービス消費が拡大してきた。さらにここ数年では、日本国内の物価上昇や為替変動によって訪日客にとっての「割安感」が薄れたことも、モノ消費の抑制に作用してきたとみられる。
2026年4-6月期の「買物代」比率は26.8%と、コロナ禍前の2019年(34.7%)と比べて約8%pt低い水準にある。もっとも、前年同期(26.1%)と比べると小幅ながら上昇しており、足元ではシフトの動きに一服感もみられる。背景には、前章でみた通り、中国からの訪日客が買い物への支出の厚い層に絞り込まれていることが挙げられる。消費内訳は、短期的には訪日客の構成変化や為替の影響を受けつつも、中長期では体験志向への構造変化が進んでいるといえる。

国籍・地域別に見ると、アジア諸国ではモノ消費、欧米諸国ではコト消費の割合が高い傾向が続いている(図表10)。「買物代」比率が最も高いのは中国(39.7%)であり、全体を12.9%pt上回る。一方、サービス消費(宿泊費・飲食費・交通費・娯楽等サービス費)の割合が最も高いのは英国(88.1%)で、イタリア(86.7%)、ドイツ(86.6%)が続いた。
おわりに~初の訪日客数前年割れが示す転換点、単価と多様化が支える新たな均衡
2026年4-6月期のインバウンド市場は、訪日外客数が1,040万人とコロナ禍後の回復以降初めて前年同期を下回る一方、旅行消費額は2兆5,096億円と前年同期をわずかに上回り、第2四半期として過去最高となった。客数と消費額の明暗が分かれた今期は、量的拡大に支えられてきたインバウンド市場が、新たな局面に入ったことを示す四半期といえる。
本稿では、2026年4-6月期を中心に、前稿の試算の更新を含めてインバウンド市場の動向を分析してきた。分析から浮かび上がったのは、以下の3つの変化である。
第一に、訪日市場の多様化が、初めて本格的な試練に直面した点である。中国からの訪日客が6割減となるなかで、これまで下支え役であった欧州もカレンダー要因やイラン情勢の影響で減少に転じ、訪日客数全体は前年割れとなった。一方で、台湾・韓国の近隣市場やマレーシア・インドなどの成長市場が伸びを保ち、減少幅は▲5.3%にとどまった。多様化は減少を和らげる緩衝材として機能したものの、中国という最大級の市場の穴を埋めきるには至らず、市場構造の強さが試される局面に入っている。
第二に、客数の減少を単価の上昇が補う構図が明確になった点である。1人当たり旅行支出は24.4万円へ上昇し、平均泊数の短縮とあわせ、1人1泊当たりでは1割強の増加となった。消費額の水準を維持した最大の要因はこの単価上昇であり、「量から質」への転換が、市場全体の数字として表れた四半期となった。もっとも、この上昇には国内の物価上昇や訪日客の構成変化も含まれており、旅行者の行動変化のみによるものではない点には留意が必要である。
第三に、中国からの訪日客が、少数ながら高単価の層へと絞り込まれた点である。訪日客数が6割減となるなかで、1人当たり旅行支出は前年同期比+9.4%と増加し、観光目的の訪日客の1泊当たり買物代は全体平均の1.7倍に達する。中長期では「買い物」から「体験」への構造変化が続く一方、足元では残った中国客の買い物集中を背景に買物代比率が小幅に上昇しており、消費内訳の変化は単純な一方向ではないことも、今期の特徴である。
こうした上期の実績を踏まえ、本稿では前稿の試算の前提を置き直した。2026年通年の訪日客数は約4,200万人と2025年を約70万人下回り、これまで拡大が続いてきた訪日客数は減少に転じる可能性が高まっている。一方、消費額は2025年をわずかに上回る水準となる試算であり、客数の減少を単価が補う今期の構図が、通年でも維持されるかが焦点となる。
もっとも、初の前年割れは、インバウンド市場の失速を意味するものではない。客数が減少するなかでも消費額の水準が保たれたという事実は、訪日市場が「何人来たか」だけでは測れない段階に入ったことを示している。中国の渡航自粛の呼びかけやイラン情勢など、政治的・地政学的な変動要因は残るものの、日本の文化やサービスへの関心は幅広い国・地域に広がっており、多様な市場と高い単価に支えられる構造は、特定国への依存よりもむしろ底堅い基盤となりうる。今後は、限られた滞在の中で高い価値を求める訪日客のニーズに応える体験コンテンツの充実と、多様な国・地域からの誘客の両立が、これまで以上に重要となる。
量的拡大から質的転換へ。以前から指摘してきたこの方向性は、客数の減少と消費額の維持が併存した今期のデータにおいて、最も鮮明な形で確認された。訪日客数の減少という初めての経験は、インバウンド市場の成熟に向けた通過点として、前向きに捉えることもできるだろう。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員 久我 尚子 )

