(ブルームバーグ):米国とイランの間で戦闘が再燃したことで、先月の暫定和平合意は正式には破綻していないものの、事実上の機能停止に陥っている。空爆の応酬は2日間にわたって続き、米国はイラン産原油への制裁を再発動している。
6月18日に発効した覚書では、敵対行為の全面停止、イランへの制裁緩和、ホルムズ海峡の通航再開を実現することが想定されていた。しかし、これらはいずれも十分には実現していない。トランプ米大統領は今月8日、この暫定合意について「もう終わった」と述べた。ただし、正式に破棄されたわけではなく、一部の取り決めはなお順守されている。
全面的な戦争への逆戻りには至っていないものの、戦闘が再び激化したことで、紛争の先行きは一段と不透明になっている。トランプ政権は、開戦当初のような激しい空爆には踏み切っていない。原油価格は上昇したものの、3月に付けた高値には遠く及ばない水準にとどまっている。一方、当初は第2段階として協議される予定だったイランの核開発計画などの重要課題について、意味のある協議が行われる見通しはほとんどない。
「覚書は崩れつつある」と、米戦略国際問題研究所(CSIS)の中東プログラム責任者モナ・ヤコビアン氏は指摘する。その一方で、「完全に崩壊するとは思わない。双方とも全面的な武力衝突に戻る利益はないからだ」と述べた。
今週前半には、イランの前最高指導者であるアリ・ハメネイ師の葬儀が終われば、協議が再開されるとの期待もあった。しかし、6日間にわたったハメネイ師の葬儀は9日に終了したものの、協議再開が実現するとの見方は関係者の間でほとんど聞かれなくなった。
米国とイランは今週、それぞれ相手側が停戦に違反したと非難している。
米財務省は7日、ホルムズ海峡での船舶への攻撃を受け、イラン産原油について、販売を容認してきた措置を撤回した。リスクコンサルティング会社オブシディアン・リスク・アドバイザーズのマネジング・プリンシパル、ブレット・エリクソン氏は、この措置によって米国が交渉で持っていた影響力の一部が失われたとの見方を示した。
「現在の内容のままであれば、この覚書は死んだも同然だ」とエリクソン氏は結論付けた。
「時間の無駄」
こうした見方は、トランプ氏が今週トルコで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で示した発言とも一致する。トランプ氏はイラン指導部を「くず」と呼び、さらなる協議は「時間の無駄」だと述べた。一方で、米国の交渉チームが必要と判断すれば、協議を続けても構わないとの考えも示した。
アトランティック・カウンシルのシニアフェロー、トム・ワーリック氏は、仮に協議が再開されたとしても、現在の覚書とは異なる新たな合意になる可能性が高いとみている。
ワーリック氏は「今後もこの覚書が土台になるかどうかは分からない」と述べたうえで、「双方とも、自らの立場が正しいことを明確に示せるよう、合意内容の修正を求めるだろう」と語った。
ホルムズ海峡の船舶通航は9日、ほぼ停止状態となった。イランは海峡の支配権を維持していると主張しており、双方の隔たりは依然として大きい。米中央軍は9日、「イランはホルムズ海峡を支配していない」と表明した。
今のところ、覚書の取り決めに基づいて解除されていた米国独自の海上封鎖は再導入されていない。しかしトランプ氏は8日、封鎖を再導入する可能性を示唆した。
海上封鎖が再開されれば、覚書が崩壊したことを示す一つのシグナルになると、民主主義防衛財団のイラン担当シニアディレクター、ベーナム・ベン・タレビル氏は指摘した。このほか、新たな対イラン制裁や中東地域への米軍追加配備も同様の兆候になり得るという。
タレビル氏は覚書について、「そうした動きが見られるまでは、背後で幽霊のように影響力を持ち続けると考えるべきだ」と述べた。
トランプ氏は、軍事作戦を長期間継続する姿勢をほとんど示していない。国内では11月の中間選挙が近づく中、戦争によるガソリン価格への影響を巡って批判も起きている。
トランプ氏は今週のNATO首脳会議で、戦争について「再び始まるとは思わない」と述べ、「非常に早く収束すると思う」と語った。
原題:Trump’s Iran Truce in Limbo After Renewed Strikes and Sanctions(抜粋)
--取材協力:Eric Martin、Kate Sullivan.
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