新興国市場を担当するトレーダーの間で、ユーロや豪ドルなどの通貨を新興国資産向け投資の資金調達通貨として活用する動きが広がっている。米ドルが再び大幅に上昇していることが背景にある。

インベスコやアライアンスバーンスタインなどの運用会社は、高利回り通貨資産への投資資金調達に当たり、米ドルへの依存度を引き下げているという。モルガン・スタンレーは顧客に対し、新興国通貨に強気ポジションを取る場合、米ドルだけでなくユーロや円も含めた幅広い通貨バスケットを調達通貨とするよう勧めた。

また、シティグループは最近、ブラジル・レアルがユーロと豪ドルに対して上昇するとの見方に賭ける取引を推奨した。

アライアンスバーンスタインで新興国債券部門責任者を務めるクリスチャン・ディクレメンティ氏は、「当社は高金利通貨への投資資金を米ドルではなく、世界の他の通貨で調達している」と述べた。その上で、「現時点では米ドルの方向性について強い確信を持った見方はしていない」と語った。

インベスコで新興国債券部門共同責任者を務めるウィム・バンデンフーク氏も同様の戦略を採用している。バンデンフーク氏によると、同社は一部の運用戦略で、資金調達通貨を米ドル以外にも分散し、ユーロやカナダ・ドル、さらに限定的ながら円も組み入れている。

新興国投資は昨年、米ドル安で息を吹き返した。しかし、米ドル相場がここ数カ月に持ち直したことで、新興国市場で人気を集めていた取引の一部は乱調に見舞われ、債券市場の上昇基調は弱まって、新興国通貨指数は一時、年初来でマイナス圏に沈んだ。

米ドルに対する強気の見方が再び広がった背景の一因には、ウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の就任がある。ウォーシュ議長が物価安定の回復に注力する姿勢を示し、その発信内容も従来よりタカ派的と受け止められたことで、米金利の高止まりが米ドルを支えるとの見方が強まった。

一方、AI関連投資の継続などが米ドルの下落圧力を和らげているものの、「新興国のキャリー取引というテーマは引き続き魅力的な投資機会を提供している」と、インベスコのバンデンフーク氏は指摘した。

低金利の通貨で資金を借り、高金利の通貨で運用するキャリー取引は、新興国市場では有力な収益源となってきた。トランプ米大統領が2025年4月に日本を含む各国・地域に対する広範な関税措置を打ち出して以降、米ドルを借り入れてブラジル・レアル、コロンビア・ペソ、トルコ・リラの通貨バスケットに投資する取引のリターンは26%に達している。

新興国市場で実質金利が最も高い水準にあるコロンビアとブラジルでは、それぞれの通貨が今年に入り対米ドルで少なくとも5%上昇した。仮に米連邦準備制度が政策金利を引き上げれば、金利差は縮小し、この取引から投資家が得られるリターンも低下することになる。

キャリー取引への投資意欲は引き続き強いものの、投資家は資金調達通貨として米ドルを利用することに伴うリスクに慎重姿勢を強めている。

HSBCホールディングスが、新興国資産に計4320億ドル(約69兆6900億円)を運用する101の機関投資家を対象に実施した最新の調査によれば、新興国市場における最大の懸念材料は、地政学リスクに代わって米ドル高となった。調査では、債券投資の選好もハードカレンシー建て債券への「明確な転換」が示されたとしている。

PGIMフィクスト・インカムの新興国債券部門責任者、キャシー・ヘップワース氏は、高利回り通貨の一部に引き続き投資妙味があるとみる一方、運用ポートフォリオでは米ドル買いのバイアスを取っている。また、一部では金利差を活用するため、円を資金調達通貨として利用しているという。

多くの投資家にとって、資金調達を米ドルだけに依存しない方向に転換する理由は、米ドルの持続的な上昇を予想しているからではなく、潜在的な相場変動への対応にある。2日には、予想を下回る雇用統計を受けてブルームバーグ・ドル・スポット指数が一時0.7%下落し、そうした変動が再び表面化した。

フォントベル・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ティエリー・ラローズ氏は、米ドルの秩序を欠いた急上昇は主要なリスクの一つであるものの、米国の通商政策や地政学的政策が「対立姿勢を強めている」ことが米ドルの上昇を抑制し、そのような極端な事態が生じる可能性を低下させるとの見方を示した。

ジェフリー・ガンドラック氏率いるダブルライン・キャピタルでグローバル国債と新興国市場運用チームを統括するビル・キャンベル氏は、夏場にかけて新興国向け取引の資金調達通貨を米ドル以外にも分散することは理にかなっているとみる。

一方で、連邦準備制度の金融政策の先行きは依然として不透明だとして、米ドルによる資金調達ポジションを全て解消することには慎重な姿勢を示した。

キャンベル氏は「米ドルが今後、大幅に上昇することが決まったわけではない」とし、「ウォーシュ氏が利上げは12月まで見送る方が望ましいと判断したらどうなるのか」と注意を促した。

原題:Carry Traders Shift Away From Dollar for Emerging-Market Bets(抜粋)

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