米国とイランの暫定和平合意は、それが維持されれば、戦争に伴う米インフレの最悪期は過ぎた可能性を示唆している。しかし、米国の消費者や経済全体の見通しには大きな不確実性が残っている。

エコノミストは、ホルムズ海峡を通る通常の海運が再開し、米国とイスラエルが2月末にイランを攻撃する前の水準までガソリン価格が戻るには時間がかかる可能性が高いと警告。それでも、5月に3年強ぶりの急加速となったインフレ率は、すでにピークを付けた可能性が高いとみる。

シティグループの米国担当チーフエコノミスト、アンドリュー・ホレンホースト氏は「この3カ月で学んだことが一つあるとすれば、それはエネルギー市場や原油市場の動向を予測するのが極めて難しいということだ」と述べた。その上で、「ただ方向性という点では、誰もが下向きだということで一致すると思う」と語った。

Photographer: Graeme Sloan/Bloomberg

米国とイランが覚書(MOU)と呼ぶ合意の詳細は、まだ公表されていない。正式な調印式は19日に予定されている。暫定合意の報道を受けて原油相場は下落し、株式相場株式相場は上昇した。

サンタンデールUSキャピタル・マーケッツの米国担当チーフエコノミスト、スティーブン・スタンリー氏は「市場は合意が成立し、全てが順調で、実質的に紛争前に近い状態に戻るとの結論に飛びついている」と指摘。「ほぼ最良のシナリオに近い状況を織り込んでいるように見受けられる」と語った。

スタンリー氏はホルムズ海峡の再開について、大規模な悪天候による混乱から空港が回復する状況に例え、嵐が過ぎ去った後も、航空機を本来の配置に戻し、通常運航を回復するまでには時間がかかるとした。

5月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比4.2%上昇と、3年強ぶりに4%を上回った。月間の消費者物価上昇分の半分超はエネルギーコストによるものだった。ガソリン価格は5月に付けたピークから既に低下し、今後も緩やかながら一段と下落すると見込まれていることから、全体のインフレ率も減速に向かう公算が大きい。

ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の米国担当チーフエコノミスト、アナ・ウォン氏は、インフレ鈍化のもう一つの要因として、他の商品価格への影響を挙げる。

ウォン氏はリポートで、「戦争による二次的な影響として、原油価格から他の商品価格への波及効果も既にピークに達した様子だ」と指摘。「BEはこれまで航空燃料、肥料、プラスチック、アルミニウム、ポリマー、天然ガス、鉄鋼を原油価格ショックに隣接する商品として特定してきた。これらのうち鉄鋼を除く分野でインフレ率はピークを付け、現在は鈍化している」とコメントした。

今回の合意に関する報道は、米金融当局者による今週の連邦公開市場委員会(FOMC)会合に影響を及ぼすにはタイミングが遅過ぎると考えられる。ただ、インフレ加速を受けて年内利上げ観測が浮上していた点を踏まえると、当局者の負担を幾分和らげることになりそうだ。また、今後の会合で利下げを議論する余地を広げる可能性もあると、エコノミストは指摘した。

トランプ大統領は、就任初日から物価を引き下げるとの公約を掲げて2期目の当選を果たした。しかし、ガソリン価格をはじめとするコストの上昇が支持率低下の一因となっている。

米自動車協会(AAA)のデータによると、全米ガソリン店頭価格は現在、平均で1ガロン当たり4.07ドルとなっている。

これは先月付けた年初来高値の4.56ドルからは低下しているものの、トランプ政権2期目発足当時に米国民が支払っていた3.13ドルを依然、大きく上回っている。

「峠越えはまだ」

ホルムズ海峡を通じた貿易活動がどの程度のペースで再開するのかを含め、多くの疑問も残っている。

原油市場を研究する米ノートルダム大学のクリスティアーネ・バウマイスター経済学教授は、全てが計画通りに進んだとしても、年末までは海運量が戦争前の水準を下回る可能性が高いと述べた。また、インフラ被害の影響で原油在庫の補充が進まなければ、今後数カ月間はガソリン価格が上昇するリスクがあると指摘した。

バウマイスター氏は、「まだ峠を越えたわけではない」と語った。

戦争によってガソリン価格やその他のコストが上昇したにものの、個人消費は底堅さを維持している。しかし、物価上昇は所得を圧迫しており、年間インフレ率は2カ月連続で賃金上昇率を上回った。中東での紛争終結が直ちに消費拡大につながるとは限らないが、消費者の購買力を下支えする効果はありそうだ。

ルネサンス・マクロ・リサーチの経済調査責任者、ニール・ダッタ氏はリポートで、「消費支出が急速に持ち直すとは考えていない」とする一方で、「原油相場の下落で実質所得が回復し、家計はバッファーを再び積み増すことができるようになる」との分析を示した。

こうした安心感の一部は、和平合意が視野に入ってきたとの楽観論を反映した最近の調査結果にも表れている。ミシガン大学が12日に発表した6月の消費者マインド指数(速報値)は4カ月ぶりに持ち直した。その主な要因はガソリン価格の下落だった。

バークレイズの米国担当チーフエコノミスト、マーク・ジャンノーニ氏は、所得の伸びが鈍化しているため、たとえ物価上昇圧力が和らいでも消費が力強く回復する可能性は低いとみる。

ジャンノーニ氏は「むしろ、今年残りの期間を通じて消費支出は引き続き減速すると予想している」と述べた。

原題:Worst of US Inflation May Be Over If Iran Peace Deal Sticks(抜粋)

--取材協力:Julia Fanzeres.

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.