ウォール街が米経済にいかに楽観的な見方を示しても、実体経済はそれをさらに上回り、リスク選好の流れを後押しして株高を支えてきた。ただ、そうした追い風が近く弱まり始める可能性がある。

著名投資ストラテジストのジム・ポールセン氏が開発したモデルによると、数カ月にわたる原油価格の高止まりと債券市場の変動性が近く、米景気の勢いをそぎ始める見通しだ。これは3月下旬以降に時価総額が9兆ドル(約1440兆円)膨らんだS&P500種株価指数の重荷となる可能性がある。

実際に発表された経済指標の数値と市場予想の差を測るシティグループの経済サプライズ指数は2023年以来の高水準にあり、単独で見れば景気は青信号をともしている。しかしポールセン氏は、この指数と政策圧力指数の間に強い逆相関があることに気付いた。政策圧力指数の動きは、約3カ月後のサプライズ指数の方向性を示唆しているという。

政策圧力指数は原油価格、米10年国債利回り、ドル高の影響を測る指標で、現在は2025年春以来の高水準に迫っている。当時はトランプ大統領の貿易戦争が市場を大きく揺さぶった時期だった。

ポールセン氏は電話取材に対し、こうした経済的圧力に伴う影響の遅効性を踏まえると、今後「米経済全体の勢いが鈍化し」、秋にかけて経済活動が下押しされるとの見方を示した。

「多くの人にとってやや意外な展開になるだろう。ウォール街ではつい最近まで、S&P500種の目標水準を8000や8500へ引き上げる動きが出ていた」と語った。

S&P500種は4月中旬以降、過去最高値更新を重ねてきた。市場参加者は高止まりする原油価格や中東情勢の緊張長期化、インフレ再燃をほぼ無視してきた。しかし今月に入りリスク選好ムードは後退した。5日に発表された雇用統計が予想を上回ったことで年内利上げ観測が強まったためだ。

ルートホールド・グループやウェルズ・キャピタル・マネジメントでの勤務経験があり、ウォール街で40年に及ぶキャリアを持つポールセン氏は、これらの要因が過去最高値圏にある株式市場にとって警戒材料になると指摘する。

経済サプライズ指数と政策圧力指数の逆相関の強さは0.7に達している。

他にも広がる警戒感

バークレイズとゴールドマン・サックス・グループのトレーディング部門も先週、同様の懸念を示した。投資家のポジション集中や相場上昇を支える銘柄数の少なさ、金利高止まりの見通しを背景に、株式市場は急な調整に対して脆弱(ぜいじゃく)になっているという。

ムリエル・シーバートのマーク・マレク最高投資責任者(CIO)は、投資家が好調なハイテク企業の業績や先週のスペースX新規株式公開(IPO)といった大型イベントに目を奪われ、株価上昇を脅かす経済リスクの高まりを見過ごしていると指摘する。

「ウォール街がロケットを見上げている間に、マクロ経済という地下室は浸水している」と例えた。

実際の経済指標と市場予想との乖離(かいり)が縮小、あるいはマイナスに転じると、株価上昇の勢いは鈍りやすい。ネッド・デービス・リサーチの集計によると、経済サプライズ指数が22を上回った場合、その後12カ月間のS&P500上昇率は平均11%だった。22から-16の範囲では平均9.5%、-16を下回る場合は平均6.7%の上昇にとどまった。

もっとも、トランプ大統領がイランとの合意の最終調整が近く完了すると述べたことを受け、11日にはS&P500種やナスダック100指数が大幅上昇し、原油価格は急落した。原油高はインフレを警戒する市場関係者にとって大きな懸念材料だった。

ただポールセン氏は、仮に原油価格が本当にピークを付けたとしても、経済と株式市場の双方で勢いが失われる可能性は残るとみる。

「原油高は経済に打撃を与える。しかし本当の悪影響は通常、原油価格がピークを付けた後に表れる。市場についても経済についても同じことが言える」との見方を示した。

原題:Jim Paulsen Says Wall Street Traders Miss Lingering Policy Risks(抜粋)

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