(ブルームバーグ):米国とイランは、ホルムズ海峡の再開に向けた暫定的な和平合意に達し、19日に正式に署名する予定だ。トランプ米大統領はすでに、自らを1979年のイラン革命以降で初めてイランとの和平を実現した米大統領だと自賛している。だが、それは誤りだ。
トランプ氏は、米国をイランとの戦争に導いた初の大統領であり、その結果、停戦を必要とした最初の大統領にもなった。歴代政権が追い求めながら実現できなかった和平は、なお訪れていない。
もし対イラン攻撃によって、米国が開戦前よりも交渉で大幅に有利な立場を手にしていたのであれば、こうした批判は当たらないだろう。覚書の文面は公表されておらず、詳細は不明だ。しかし、イラン側が勝利を誇示する一方、イスラエル側が強い懸念を示している事実は、そのような状況ではないことを物語っている。
こうした反応と、これまでに明らかになっている公式発言を踏まえると、トランプ政権の交渉団は少なくとも現時点では、トランプ氏が自ら招いた問題の後始末に追われているにすぎない。
その代表例が、イランが保有する高濃縮ウラン在庫の処理だ。トランプ氏が2015年の核合意を破棄するまでは存在しなかった問題である。ホルムズ海峡の航行再開も同様だ。海峡閉鎖そのものが、トランプ氏が始めた戦争の帰結だからだ。
イスラエル側が衝撃を受けているのは、紛争当事者でありながら交渉の蚊帳の外に置かれたうえ、この停戦によって開戦の目的だった問題が解決に向かう兆しが見えないためだ。核問題は停戦発効後の交渉事項に先送りされており、それ以外の問題については言及すらされていない。
各当事者の発言を突き合わせると、最終合意は少なくとも4本柱になるとみられる。レバノンを含むすべての敵対行為の停止、ホルムズ海峡の航行再開、核交渉の再開、そして凍結されている数十億ドル規模のイラン資産の解除だ。ただし、その条件や実施時期は明らかになっていない。
イスラエル首相府が11日に発表した声明は、むしろ今回の暫定合意で多くの課題が積み残されることを改めて浮き彫りにした。声明にはこう書かれている。「ネタニヤフ首相は、交渉の最終段階で成立する合意に、濃縮核物質の除去、ウラン濃縮関連施設の解体、ミサイル生産の制限、そして地域の代理勢力に対するイランの支援停止が盛り込まれるとのトランプ大統領の確約に謝意を表明した」
イランの交渉担当者もまた、この合意を国内で受け入れさせる必要がある。強硬派は米国とのいかなる合意にも反発している。前回の核交渉中にイスラエルと歩調を合わせ、イラン最高指導者の暗殺に踏み切った米国を信用していないからだ。
こうした国内の反発を和らげる世論工作の一環として、イラン国営メヘル通信は、交渉団の戦略顧問であるメフディ・モハマディ氏の見解に加え、流出したとされる14項目の覚書草案を掲載した。
モハマディ氏は、米国がイスラエルに一定の歯止めをかけることを約束するのは初めてだと強調し、その意義を高く評価した。また、「最大限の圧力」制裁政策を主導してきたトランプ氏が、合意によってイランに対する主要な経済制裁の解除を約束することになるとも述べた。覚書は高濃縮ウラン在庫の希釈に向けた協議は求めているが、それ以外の核問題を巡る交渉には踏み込んでいないようだ。そうした協議には双方の同意が必要であり、「相互の合意がなければ交渉は行われない」とモハマディ氏は語った。
メヘル通信が公表した草案には、3000億ドル規模の復興基金創設など、イラン側の願望に近い内容も含まれている。ただ、米当局者の公式・非公式の発言を見る限り、モハマディ氏が説明する合意の核心部分が誤りだと裏付ける材料は見当たらない。
そうだとすれば、この暫定合意は、戦争が少なくとも米国にとって戦略的な失策だったことを映し出している。イラン政権は打撃を受けたものの、戦前より強い交渉力を手にしたことになる。
トランプ氏は以前、自ら破棄したオバマ政権下の核合意について、時限的な取り決めにすぎず、イランのウラン濃縮計画や弾道ミサイル開発、地域の親イラン勢力の問題を解決できていないと批判していた。また、イランの譲歩と引き換えに、凍結資産へのアクセス再開や制裁緩和を認めたことも問題視し、自分ならより良い合意を実現できると主張していた。
しかし、19日に署名される見通しの合意は、同じ問題を抱えたまま、より限定的な核合意と引き換えに、さらに大きな譲歩を受け入れる内容になりそうだ。その背景には、イランがホルムズ海峡封鎖を外交カードとして使えると認識したことがある。もっとも、海峡封鎖という切り札を手にしたからといって、現在のイラン政権が延命するとは限らない。中東情勢は本質的に不安定なものになるだろう。
筆者は、合意が成立すること自体は疑っていない。この戦争を続けても、米国にとって現実的な勝算はなく、その代償は世界経済だけでなく、トランプ氏自身の政治的立場にも重くのしかかるからだ。
ただ、これは停戦の継続とホルムズ海峡を巡る合意にすぎない。米国とイランの関係を根本から再構築し、地域に安定をもたらす和平合意ではない。戦争前から存在していた問題がすべて将来に先送りされたこと自体が、この戦争の失敗を物語っている。
(マーク・チャンピオン氏は、欧州・ロシア・中東を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。以前はウォールストリート・ジャーナルのイスタンブール支局長を務めていました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Trump’s Iran Truce Has the Hallmarks of Defeat: Marc Champion(抜粋)
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