(ブルームバーグ):トランプ米大統領はレバレッジの力を熟知しているはずなのだが、ホルムズ海峡におけるイランの影響力の大きさを著しく見誤っている。
トランプ氏は、同海峡を通ってイランの港湾に出入りする全ての海上交通を封鎖すると威嚇しているが、それはイランを屈服させるよりも、政治的打撃を伴う戦争へと自らを一段と引きずり込む可能性の方がはるかに高い。
エネルギーの封鎖は戦争行為にほかならない。それを示す例として想起されるのが、日本に対する全面的な石油禁輸から約半年後に起きた真珠湾攻撃だ。さらに、封鎖は効果が現れるまでに時間を要する。明らかなのは、この封鎖そのものが米国にとって勝ち目のない勝負であるという点だ。
ホルムズ海峡を通じてイランの石油輸出を止めるという発想には、一応の理屈がある。イラン経済は同海峡を通じた石油輸出に大きく依存しているからだ。戦争開始後、イラン産原油だけが通過する状況を米国が容認してきたこと自体、異例なのだ。理論上は、封鎖によって戦争の大幅なエスカレートを招かずに対イラン圧力を強めることは可能である。
しかし、これが成り立つのは、イランが湾岸のエネルギー関連施設への報復攻撃を控え、かつトランプ氏に先んじて屈すると想定できる場合に限られる。いずれの前提も現実味に乏しく、こうした試みによってホワイトハウスが何を得ようとしているのかは理解し難い。
トランプ氏は、核合意を破棄した第1次政権の自らの決定を正当化するために望んでいた「降伏」をイランから引き出せないまま、交渉が行き詰まる中で戦争に踏み切った。
米国がイランに求めたのは、ウラン濃縮の全面放棄、長距離弾道ミサイル開発の制限、さらにレバノンのヒズボラからイエメンのフーシ派に至る親イラン武装勢力への支援停止などだ。いずれも、イランが地域を不安定化させる力を削ぐことを狙ったものだった。
しかしイラン側から見れば、これらは自らを守る手段でもあった。つまり米国やイスラエルの行動を抑止するためのものだったが、結果的に機能しなかった。それでも今回の戦争は、イランに一段と強力なレバレッジを与えた格好だ。世界で最も重要なエネルギーの要衝を混乱させ、支配し、さらには収益化するという力である。今や、イランがこれら4つの抑止手段をすべて手放す可能性は、ほぼゼロに等しい。
トランプ氏は、イランが交渉の場に戻るかどうかはどちらでも構わないとしている。バンス米副大統領は、米国側の最終提案を拒否すれば、米国よりもイランの方が大きな打撃を受けると主張している。
率直に言って、こうした見方は現実離れしており、相手により大きな打撃を与えることと勝利は別物だという点を、トランプ氏と側近らは理解していない。
戦時下におけるトランプ氏の発言のブレは、巧妙な戦略の一環だと考えたいところだ。しかし実際には、米軍の圧倒的優位が成果に結びついていないことへの苛立ちの表れにすぎない。
トランプ氏は戦争に勝利したと主張する一方、イランが屈しなければ文明として破壊する必要があるかもしれないとも述べている。イランの核開発計画は「壊滅した」としながら、それを放棄しない限りいかなる合意も成立しないとも主張している。
また、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国であれば武力でホルムズ海峡を容易に開放できると述べる一方で、米海軍はそれを実行しようとしていない。さらに今度は、イランに海峡を開かせるために封鎖を強化しようとしている。現実を直視していないと言わざるを得ない。
戦争は往々にして計画通りに進まず、制御不能に陥る。この戦争も例外ではない。圧力によってイラン政権が崩壊する可能性は残るものの、現時点でその兆しは見られない。
そうした状況が続く限り、トランプ氏はいずれ厳しい現実を認めざるを得ない。すなわち、まだ勝利しておらず、明確な軍事的勝利への道筋もなく、そして自身も世界経済もホルムズ海峡の閉鎖を維持する余裕はないという事実である。
誤解してはならないが、イラン政権は危険な存在であり、核兵器の保有は決して認められない。問題はそれをいかに現実的に達成するかに尽きる。イラン指導部の立場も、勝利を誇示するほどには強くはない。戦闘が終われば、政権を維持するための資金や国民の支持を確保しなければならず、状況は一段と厳しくなる。
現時点での厳しい現実は、英国の対外情報機関MI6の元長官アレックス・ヤンガー氏が先月指摘した通り、イランが主導権を握っている点にある。それは敵対国より強いからではない。ホルムズ海峡を封鎖できると認識しており、その経済的な痛みを自国民に負わせることを、トランプ氏や他国よりもいとわないためである。
トランプ政権は、たとえホルムズ海峡を通じたイランの貿易を全面的に封鎖しても、短期的な勝利は望めないと認識すべきだ。
成功への明確な道筋がないまま戦争を拡大し、米国と世界に莫大なコストを強いることはできる。あるいはトランプ氏が、少なくとも当面は最後通告を取り下げ、停戦を維持しつつホルムズ海峡を開いた状態で、時間をかけた現実的な交渉に戻るしかないと認めることもできる。
イランの交渉担当者は外交交渉に戻る用意があると明確にしている。商品市場や株式市場も、比較的落ち着いた反応から判断する限り、それが避けられないとみているようだ。だが、この静けさは安心の証しではない。この見方に背を向け続ければ、トランプ氏はいずれ後悔することになろう。
(マーク・チャンピオン氏は、欧州・ロシア・中東を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。以前はウォールストリート・ジャーナルのイスタンブール支局長を務めていました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Hormuz Blockade Is a Throwdown the US Can’t Win: Marc Champion(抜粋)
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