トランプ米大統領が演出してきた無敵のイメージが揺らいだ。米軍の戦闘機がイランに撃墜され、行方不明となった乗組員1人の捜索が続いている。米国とイスラエルがイラン攻撃を開始して5週間がたち、トランプ氏は高まる政治的リスクを抑え込もうとしている。

トランプ氏はこれまで、イラン領空における米軍の優勢を繰り返し主張。米国は勝利し、イランの軍事能力は壊滅したとの強硬なレトリックを用いて市場を落ち着かせ、戦争に強く反対する米世論をなだめようとしてきた。

3月31日には、イランには「防空能力がない。何もない。何一つ持っていない」と記者団に発言。「彼らは反撃してこない。われわれを撃ってすらこない」と述べていた。

しかしその数日後の4月3日、イランは米軍のF15E戦闘機を撃墜した。勝利をほぼ手中に収めたというトランプ氏の認識に疑問が生じている。同日にペルシャ湾付近で墜落した米軍のA10攻撃機も、敵の攻撃を受けた可能性があると報じられている。

退役准将のスティーブ・アンダーソン氏は「イランが多くのカードを持ち、それらを使い続けていることを示す」と指摘。「われわれにとって明らかにリスクになる」と述べた。

アダム・キンジンガー元米下院議員(共和)は「少なくともイランが完全に破壊されたと米国民を納得させることは、今後一層難しくなるだろう」と述べた。同氏は空軍パイロットの経験を持ち、トランプ氏を長年批判してきた。

「イランに無謀に介入したと批判する側に新たな材料を与えることになり、トランプ氏が政治的な打撃を負うのは間違いない」と語った。

トランプ氏は1日夜の国民向け演説で、「戦争の歴史において、敵がわずか数週間でこれほど明確かつ壊滅的な大規模損害を被った例はない」と主張。「われわれの敵は敗北し、米国は勝利しつつある。私の大統領任期である5年間がそうであったように、今も勝利しており、これまで以上の勝利を収めている」と述べた。

米共和党の元下院議員チャーリー・デント氏は、トランプ氏の大げさな言葉遣いや一貫性を欠くメッセージを批判し、「トランプ大統領の問題は自身の言葉にある」と話す。

デント氏は、米軍機の喪失はトランプ氏が抱える政治的苦境を一段と深めたと指摘。世論調査では、大多数の米国民が戦争自体だけでなく、戦争に対するトランプ氏の対応も否定的にみていることが示された。

支持基盤にもほころびが見られ、共和党内からは11月の中間選挙後に議会で過半数を維持できているかどうかを懸念する声が聞かれる。トランプ氏と共和党にとって「この戦争は政治問題だ」とデント氏は述べた。

トランプ氏は戦争に勝利し、近く終結する可能性を示唆することで市場の動揺を抑え、議員らの不安を和らげようとしてきた。その一方、発言を何度も変えて市場を混乱させている。

米国内や同盟国の間では、同氏が示してきた不確かな時間軸がまたも変更されるのではとの懸念が強まっている。

4日にはイランに対して示していた4月6日の期限に言及。和平合意やホルムズ海峡開放を求めた期限が迫っているとし、応じなければ「とてつもない地獄が支配する」とSNSに投稿した。

故ジョン・マケイン上院議員の元顧問でブルームバーグ寄稿者のリック・デービス氏は、民主党のバイデン前大統領がアフガニスタンからの米軍撤退時の混乱から政治的に立て直せなかった点に言及した。

デービス氏は、トランプ氏がイラン戦争によって同様の政治的打撃を被る可能性を指摘。アフガン撤退を巡っては一部の有権者がバイデン氏への投票行動を変えたが、米軍機の撃墜もトランプ氏の能力に疑問を投げ掛けていると述べた。

「一度支持が離れれば、人々の見方が変わることはないだろう」とデービス氏は語った。

原題:Trump’s Victory Rhetoric Undercut by Downed US Jet in Iran War(抜粋)

--取材協力:Maria Paula Mijares Torres.

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